暇をしていた分、少し会話してみることにした。
『あなたは誰ですか?』
『しがない孤独な作曲家、ぱてまなのだよ。君に曲作りを手伝ってもらいたいのだよ。』
曲作り?私はオリジナル曲を投稿したことは一度もない。音楽に関してはアマチュアで楽器もろくに弾けない。歌だって...
『失礼ですが、誰かと勘違いしていませんか?』
『してないのだよ。私はあなたに協力して欲しいのだよ、key。』
ぱてまと名乗る、突っかかる話し方の作曲家は何度質問しても同じことしか述べない。
『私は曲なんて作ったことないです。お力添え出来かねます。』
『違うのだよ、もちろん作曲において意見や協力はしてもらいたい。でも結果的に私が君に求めているのは私が作った曲を歌って欲しいのだよ。』
歌う...歌う"か。前の私なら、出来たかもしれない。前の私だったら快く了承していたかもしれない。
『ごめんなさい。それはできません。』
『どうしてなのだよ?』
癪に障る話し方で苛立ちが増し、しつこく感じる。私だってどうしてだか分からない。自分がなんでこんなに弱いのか、どうしてここまで無力なのか。自分に問いたい。
『無理なものは無理なんです。』
『わかったのだよ。なら、一度だけ私の曲を聴いて欲しいのだよ。宣伝程度に。』
どこまでも図々しいと頭の中で思いながらプロフィールから動画のURLで飛ぶ。
流れてきたのは静かな海の中のような旋律。題名の横にBGMと書かれている。どうやら歌詞はないようだ。
「(あれ...?)」
キラリと涙が落ちる。優しく包まれるような穏やかな音が一音ずつ私をあたためる。空っぽの心が満たされていくような感覚。溢れ出て涙が止まらない。初めての感覚だった。
目を瞑ると海の底に沈んでいく、体は揺れただひたすらに波に流れを任せている。不思議、沈んでいるのにあたたかい。一分半の短い曲が終わると、またあの作曲家からメッセージが届いていた。
『その曲の題は"眠る海"なのだよ。私の中では結構な自信作だけど...どうだったのだよ?』
「(眠る海...)」
ぱてまに返信する間もなく、私は自然といいねとフォローをクリックしていた。
歌えない私をこの作曲家はどう思うだろう。私の心の中で、「協力する」以外の気持ちはとっくになくなっていた。