「純恋、学校におやすみの連絡入れたから今日はゆっくり休みなさい。明日からのことは純恋が好きに決めていいから。」
こくりと静かに頷くと、母は無理に笑顔を繕って寝室を後にした。今まで学校を休んだことなんてなかったから、里穂は驚くだろうな。
毛布にくるまったまま起き上がりスマホを開く。こういう時、SNSを見たり呟いたりするのが若い人の暇つぶしなんだろうけど、私はあいにくSNSに興味が湧かずアイコンはまだ初期のまま状態である。一応keyとしてのアカウントはあるものの、ほぼ情報を発信せずアカウントを知る人も少ないためフォロワーもマイナーな調べ尽くしたファンしかいない。アプリを最後に開いたのはいつだったろう。
動画サイトを見ると、出てくるのはkeyのカバー曲ばかり。気づいてなかったけれどかなり私は自分に酔っていたみたい。おすすめの関連動画が全て私なのはよっぽどだと思う。
コメント欄は相変わらずのアンチ。もう失うものは失ったから無心で見ている。それに追加して頻繁に動画投稿をしていた私が動画をあげなくなり心配するファンが増えてきている。
『keyどうしたの?そろそろkeyの歌が聴きたいよ』
『key動画投稿してー!!』
声が出ない以上、私があげられる動画はない。謝罪動画だって、声がないとあげられないしあげる柄でもない。動画を閉じてもう一度眠りにつこうとすると一本の動画が目につく。
「(あ...Miraの新曲がアップされてる。)」
Miraは私が憧れるシンガー。私と同じ高校生で、顔や年齢以外の情報は一切公開していない。思えば私がこの活動を始めたのは、Miraの影響が大半だったかもしれない。

『Mira?』
『そうそう!!今超話題のシンガー!!』
里穂に強制的に見せられた動画はサムネ画像が静止画のカバー曲動画。イラストは真っ白な空間で鏡が置かれ、青髪にポニーテールの女の子が鏡に手を伸ばしている。なんとも神秘的なイラスト。
『Miraって、"鏡"って意味が込められてるんだって。鏡の中の自分と現実の自分は逆に映るでしょ?シンガーのMiraは"Miraの中の人"の理想の姿、つまり鏡なの。』
優しいのにどこか力のある歌い方、歌に感情をのせてどこまでも届きそうな歌声。私は一瞬でMiraの虜になった。

Miraには味方がいる分、敵も多い。それでも負けずに歌い続けて皆に笑顔で歌を届ける。それに比べて私は...

┈┈┈┈┈メッセージが届きました┈┈┈┈┈
捨て垢とまで化していたSNSのDMにメッセージが届いたらしい。ファンからだろうか。さすがに心配をかけてしまってるならDMくらいは返すべきなのだろうか。相手は『ぱてま』という名前
『はじめましてなのだよ。私はしがない孤独な作曲家、良ければ一緒に曲作りをしよう、なのだよ。』
おかしな語尾、突っ込みどころは色々あるもののまずは曲作りという文字に目がいく私だった。