「...れ...純恋!!」
私を呼ぶ声が聞こえる。体の感覚が戻りハッと目を覚ます。母の涙が私の頬を伝う。
「よかった純恋...すっごく心配したんだから...!!」
ごめんね、お母さん。私、どのくらい眠ってたの?
「もうそろそろお父さんが来るからね。お父さん仕事無理やり終わらせて病院向かってるって。」
それは本当にごめんなさい...お父さんに謝らなきゃだね。
「...純恋?」
え?どうしてそんな目で私を見るの?お母さんこそ大丈夫...?顔が真っ青...
「ねぇ純恋、あなたどうして喋らないの...?」
...え?

「失声症...ですね。ストレスや精神への過度な苦痛により起こりえます。」
失声症...?声が出ない、私の声が届かないの?私の声、返してよ...!!
「娘は治りますか?」
「人によって症状が違い、治るまでの時間も違います。今は何とも言えません。」
「そんな...」
じゃあ私の...もう1人の私、keyはどうなるの...?
「ーーーーっ!!!!」
ドタバタと地団駄を踏んで無理やり声を出そうとする。喉が私の喉じゃないみたい、声の出し方を知っているはずなのに思うように声が出せない。
「っ...!!!!...っっ!!!!」
「純恋、落ち着いて純恋!!!!」
誰にも聞こえないか細い息を吐きながら、号泣する私を母は優しく抱きしめた。私の声を返して、私のたった一つの宝物を、返して。

翌日経っても、声は出なかった。病院からは「心をリラックスさせろ」と命令が出た。例えそれが今の一番の策だとしても、私が欲しいのは声。今すぐに私の声が戻ってきて欲しい。
「...」
見えない何かが私の首を絞めている。心做しか息苦しさを感じる。咳払いをしてみたり、試行錯誤してみたり。何をしても出てくるのは溜息だけ。
『らしさがないよな』
「...!!」
見えない何か。顔の知らない誰か。きっとそれは、私のことを快く思っていないあの人達だ。どこかで私のことを悪く言って、どこかで私を蹴飛ばして無責任にあることないことを駄弁る。
静かにパソコンを開いて動画サイトにアクセスした。相変わらずフォロワーは右肩上がりで、再生回数もどんどん伸びている。
止まった私の心は置いていかれたまま。