『できた...!!』
『あとは歌うだけなのだよ~』
歌...。もう何ヶ月も歌っていない私には、普通だったことなのに出来なくなってしまった。歌うのが、怖い。
『keyのチャンネルから、生配信が無難かしら。今予告して、7時頃...とか』
『でも私、歌えるかな...』
『何言ってるの、keyは今まで通り歌うだけだよ。』と里穂が背中をぽんと叩く。
私にはまだ戸惑いがあった。

今日の7時、生配信でkeyとしてお披露目配信することになった。予約投稿するとSNSやネットニュースはkeyの配信のことで持ち切りで、どこを見てもkeyの話題で溢れかえる。期待がかかればかかるほど、私はプレッシャーが比例するように押し寄せる。心臓の音が鳴り止まない。
「大丈夫、傍で私も着いてるし声でサムネはイラストを使うから。」
確かに、そう、そうだけど...
戸惑う私の頬をバチンと両手で里穂が挟み叩いた。
「...里穂?」
「ばか!!あれだけ気合い入ってたくせに水の泡にしたいのか!!」
「ち、違うよ私は...!!!!」
歌いたい、歌を届けたいけど...
「あれだけの期待に応えられる自信が...」
「あれだけ期待があるのは、それだけ純恋に能力があるからでしょ!!純恋の歌を聴きたいってただ純粋に待ってるの、皆純恋の歌を待ってる!!」
私の歌...私が歌う...
「...歌」
「だから歌って、純恋。画面の向こうで待ってる何百万人の...世界中の人達に歌を届けて。私も聴きたい。」
歌う、歌ってみせる。私はkey、皆の心の鍵を開いてみせる。