どこだ、ここは?
俺は警察庁の機動隊所属のポリスメーンだ。
確か白バイでスピード違反をしていた車を追っかけていたら転んで……。
「あっ!? 俺、死んだのか?」
ふと辺りを見回すとそこは真っ白な雲の上。
ゆっくりと身体を起し、立ち上がる。
地面というべきか、ふわふわと柔らかい雲を足で確かめる。
「天国?」
俺がそう自分に問いかけると、煌びやかな一筋の光りが現れる。
「…リよ……」
途切れ途切れの男の声がする。
俺は光りに恐る恐る近づいた。
すると白いローブを纏った長髪の老人が立っていた。
一見浮浪者のようでヒゲが腹まで伸びている。
だが、違和感があるとすれば、頭の上に光のわっかが浮いているところか。
「よくぞまいられた、ユーリよ」
「本官のことでありますか!? なぜ本官の名前を?」
俺がそう言うと老人は「ほっほっほっ」と肩で笑い出した。
「この度はすまんかったのう……わしのミスでユーリをトラックの下敷きにして頭が割れてしもうてのう。もう地球では生きてけない身体になってしもうた」
「なっ!? それでは本官の職務は!? 俺の仕事は人々を守ることであります!」
「ユーリ、そなたならそう言うと思っておった」
「どういうことでありますか?」
「その暖かい気持ち、異世界で使わんか? このまま天国に行くことも可能じゃが……」
「つまり本官は異世界に行かないと死ぬのでありますか!?」
「うむ」
なんてこった。
よりにもよって俺が異世界で勇者だなんて……。
か弱き市民を守りたい。
その一心で警察官になったというのに。
無念。
だが死ぬのはまだ早いのではないか?
異世界にも地球のような困っている一般市民がいるかもしれない……。
「決めました! 本官は本日付けで異世界勤務を受諾しました!」
ビシッと敬礼する。
「さすがじゃ、勇者ユーリよ」
「はっ!」
「ところでユーリよ、間違ってお前をブチ殺したお詫びに一つスキルをマックスにしてやろう。なにがいい?」
「スキル? それはなんでありますか?」
「そうじゃのう。例えば、前世の世界で得意だったものを会得してはどうじゃ?」
「本官の得意なこと……」
俺が考えるに警察官を初めて早15年。
射撃とバイクの運転、それから警棒ぐらいか……。
ピストルは異世界にないだろうし、バイクなんてもってのほかだ。
「警棒ってありますか?」
「警棒? ああ棒スキルならあるぞい。ただしゴミスキルだぞ?」
「構いません! 本官は異世界でも警察官でありたいのであります」
「なるほどのう……じゃあ棒スキルをマックスにしてやろう、フンッ!」
老人が手をかざすと俺の右手に刻印が刻まれた。
「では、勇者ユーリよ、異世界で治安を守ってくるのじゃ!」
「了解であります!」
次の瞬間、俺は立っていた雲に穴が開き、急降下。
地上へ落とされたのだった。
それから一年後。
「ヒャッハー! この村の可愛い女を全員出しやがれぇ!」
「いやぁ! 助けてぇ! 犯されるぅ!」
「その汚い手を離せぇ!」
俺はひのきのぼうを持って緑色のゴブリンに向かって叫んだ。
「なんだお前は? そんな初期装備のボロい棒切れなんぞ持ちやがって? 死にたいのか」
ゴブリンはヨダレを垂らしながら俺に笑いかける。
そして捕まえた少女の頬をベロッとなめた。
「きゃあ!」
「貴様! か弱き婦女子になにをする! 強制わいせつ罪で現行犯逮捕だ!」
「逮捕? なにを言って……」
異世界では聞きなれない言葉を聞いてうろたえているゴブリンに襲い掛かる。
「突撃ー!」
「ちょ、ちょっと待てぇ……いて、いてて」
俺はひのきのぼうでボカスカとゴブリンの頭を連打する。
だが、所詮攻撃力2の武器だ。
なかなか倒せない。
とにかく連打だ、連打に尽きる。
「痛い、痛いってば! ちょっと待て!」
「やかましい! 公務執行妨害だ!」
「あいたた……いってぇ」
たんこぶが膨れ上がり、泣き出すゴブリン。
「もうしないからぁ!」
「自首するのか? よし異世界時間、4時12分確保!」
そう言って荒縄のロープでゴブリンの手を背中で縛る。
「お、俺を殺さないのか?」
ゴブリンは観念したのか、地面に腰を下ろして泣きながら俺を見上げる。
「殺す? そんなことを本官がするわけないだろう」
「ど、どうして? お前は勇者じゃないのか?」
「違う! 本官は異世界に異動してきた、ただの警察官だ!」
「あ、あの私はどうしたら……」
捕まっていた少女が困惑した顔で俺に声をかけてきた。
「あっ、君が被害者だね? あとで調書とるから村に一緒についてきて」
「は、はぁ……」
俺は加害者であるゴブリンを立ち上がらせると異世界交番のある村へと戻っていった。
「うむ、本日も平和だな」
了
俺は警察庁の機動隊所属のポリスメーンだ。
確か白バイでスピード違反をしていた車を追っかけていたら転んで……。
「あっ!? 俺、死んだのか?」
ふと辺りを見回すとそこは真っ白な雲の上。
ゆっくりと身体を起し、立ち上がる。
地面というべきか、ふわふわと柔らかい雲を足で確かめる。
「天国?」
俺がそう自分に問いかけると、煌びやかな一筋の光りが現れる。
「…リよ……」
途切れ途切れの男の声がする。
俺は光りに恐る恐る近づいた。
すると白いローブを纏った長髪の老人が立っていた。
一見浮浪者のようでヒゲが腹まで伸びている。
だが、違和感があるとすれば、頭の上に光のわっかが浮いているところか。
「よくぞまいられた、ユーリよ」
「本官のことでありますか!? なぜ本官の名前を?」
俺がそう言うと老人は「ほっほっほっ」と肩で笑い出した。
「この度はすまんかったのう……わしのミスでユーリをトラックの下敷きにして頭が割れてしもうてのう。もう地球では生きてけない身体になってしもうた」
「なっ!? それでは本官の職務は!? 俺の仕事は人々を守ることであります!」
「ユーリ、そなたならそう言うと思っておった」
「どういうことでありますか?」
「その暖かい気持ち、異世界で使わんか? このまま天国に行くことも可能じゃが……」
「つまり本官は異世界に行かないと死ぬのでありますか!?」
「うむ」
なんてこった。
よりにもよって俺が異世界で勇者だなんて……。
か弱き市民を守りたい。
その一心で警察官になったというのに。
無念。
だが死ぬのはまだ早いのではないか?
異世界にも地球のような困っている一般市民がいるかもしれない……。
「決めました! 本官は本日付けで異世界勤務を受諾しました!」
ビシッと敬礼する。
「さすがじゃ、勇者ユーリよ」
「はっ!」
「ところでユーリよ、間違ってお前をブチ殺したお詫びに一つスキルをマックスにしてやろう。なにがいい?」
「スキル? それはなんでありますか?」
「そうじゃのう。例えば、前世の世界で得意だったものを会得してはどうじゃ?」
「本官の得意なこと……」
俺が考えるに警察官を初めて早15年。
射撃とバイクの運転、それから警棒ぐらいか……。
ピストルは異世界にないだろうし、バイクなんてもってのほかだ。
「警棒ってありますか?」
「警棒? ああ棒スキルならあるぞい。ただしゴミスキルだぞ?」
「構いません! 本官は異世界でも警察官でありたいのであります」
「なるほどのう……じゃあ棒スキルをマックスにしてやろう、フンッ!」
老人が手をかざすと俺の右手に刻印が刻まれた。
「では、勇者ユーリよ、異世界で治安を守ってくるのじゃ!」
「了解であります!」
次の瞬間、俺は立っていた雲に穴が開き、急降下。
地上へ落とされたのだった。
それから一年後。
「ヒャッハー! この村の可愛い女を全員出しやがれぇ!」
「いやぁ! 助けてぇ! 犯されるぅ!」
「その汚い手を離せぇ!」
俺はひのきのぼうを持って緑色のゴブリンに向かって叫んだ。
「なんだお前は? そんな初期装備のボロい棒切れなんぞ持ちやがって? 死にたいのか」
ゴブリンはヨダレを垂らしながら俺に笑いかける。
そして捕まえた少女の頬をベロッとなめた。
「きゃあ!」
「貴様! か弱き婦女子になにをする! 強制わいせつ罪で現行犯逮捕だ!」
「逮捕? なにを言って……」
異世界では聞きなれない言葉を聞いてうろたえているゴブリンに襲い掛かる。
「突撃ー!」
「ちょ、ちょっと待てぇ……いて、いてて」
俺はひのきのぼうでボカスカとゴブリンの頭を連打する。
だが、所詮攻撃力2の武器だ。
なかなか倒せない。
とにかく連打だ、連打に尽きる。
「痛い、痛いってば! ちょっと待て!」
「やかましい! 公務執行妨害だ!」
「あいたた……いってぇ」
たんこぶが膨れ上がり、泣き出すゴブリン。
「もうしないからぁ!」
「自首するのか? よし異世界時間、4時12分確保!」
そう言って荒縄のロープでゴブリンの手を背中で縛る。
「お、俺を殺さないのか?」
ゴブリンは観念したのか、地面に腰を下ろして泣きながら俺を見上げる。
「殺す? そんなことを本官がするわけないだろう」
「ど、どうして? お前は勇者じゃないのか?」
「違う! 本官は異世界に異動してきた、ただの警察官だ!」
「あ、あの私はどうしたら……」
捕まっていた少女が困惑した顔で俺に声をかけてきた。
「あっ、君が被害者だね? あとで調書とるから村に一緒についてきて」
「は、はぁ……」
俺は加害者であるゴブリンを立ち上がらせると異世界交番のある村へと戻っていった。
「うむ、本日も平和だな」
了