だが、辺境伯という言葉にも少し引っ掛かりを覚えた。

「私達家族は、ここ『ザッハトルテ』を始め辺境にある村や町を治めているのです」

「辺境? 『ザッハトルテ』は町だった……」

「辺境伯が治めているエリアの中では唯一の町ですからね。 それでこの『ザッハトルテ』を拠点にあなたのやりたいことをやってみたらいいでしょう」

 確かにここが辺境の中で町クラスの規模ならば、色々武器も防具、道具も替えるしな。
 だが、それがセシリアの婿養子になるという理由にならないと思ったが、次の発言で納得した。

「私達家族で考えている間に、勇者ソキウスが死亡したというニュースが写真付きで送られてきたのです。 それで写真と当時のあなたの姿を確認した所、まさしくあなたがソキウス様だと判明しました」

「そこで俺が勇者である事と、その俺が死亡扱いされていたのが分かったのですね」

「ええ、夫の耳にも届いていましたわ。 向こうの国ではそして一度鬼籍に入ってしまうと、生きていたとしてもアンデット扱いされて迫害されるのです」

「もしかして、俺が新しい名前を名乗ろうと考えていたタイミングで婿養子の提案を?」

「そうです。 出会って間もないでしょうが、これはセシリア自身も理不尽なお見合いを回避する為でもあるのです」

 シュルツ達によって、『ソキウス・エグジット』が鬼籍扱いされた事は辺境伯の耳にも届いていたようで、もし俺が目覚めた場合にセシリアの婿としてかつ婿養子として迎えようと眼が得ていたそうだった。
 確かにアグリアス王国では、一度鬼籍入りされると生きて帰って来たとしてもアンデット扱いをされて迫害されるのだとか。
 そうなると、アグリアス王国には戻ることはできないから、この提案は俺が新しい生活をするための足掛かりでもあるわけだ。
 そして、セシリアも辺境伯の娘で貴族でもあるので、他の自己中心的な貴族からのお見合いが後を絶たないらしいから、それを回避するための案でもあった。

「ソキウス様……」

「にーに……」

 セシリアとフィンランちゃんが俺を見つめる。
 まぁ、母親からここまで聞かされたのだから、もう答えは決まっている。

「分かりました。 その提案は受け入れます」

 この答えを言った時、セシリアはパァッと嬉しそうな笑顔になり、フィンランちゃんもわーいと嬉しそうに走り回っている。