そして全体をまとめるコンセプトを提案すると、いかにも凄いデザインだという雰囲気を醸し出せる。これもすべて読みの範疇で、特別凄いことをしたわけではない。クライアントは、デザイン料を余計に取られるのではないかとヒヤリとするが、タイミングを計って、

「こちらはサービスでデザインしました。まあ、私にとって趣味みたいなものだと思ってください」

 というと、クライアントがニッコリする。そしてこちらはニヤリと笑ってみせる。

 すべて台本通りで、デザイナーは大根役者を演じているだけだ。

 三村もこんなことをしているデザイナーの一人である。

 だが、あるとき難しい案件が飛び込んできた。重度の障害者が人間らしくくらすための仕組みづくりをしてほしい、というものだ。マーケティングという言葉からかけ離れた依頼で、考えるとっかかりがない。まずは、

「人間の幸せってなんだろう」

 こんな素朴な問いを考えなくてはならなくなった。

 まず大前提として、障害者には健常者と変わらない扱いを受ける権利がある。そして健常者と同じ扱いを受けることを望んでいる。