「玲奈……」

 私は、無意識に空気のような声で彼女の名前を呟いていた。静かな教室の空間で、その小さくて寂しげな私の声は端から端まで響いた。

 謝れば許してくれるのかもしれないけれど……。

 うん、彼女なら許してくれる。けれども、ごめんねって言葉が、言えない。
直接でなくても、メールとか、他にも方法はあるのに。言えないまま、こんなに時が過ぎてしまった。過ぎるほどに謝るタイミングから遠ざかって、今に至る。

 玲奈の事を考えていたら、涙が出てきた。涙と共に今までなんとか抑えていた感情も止まらなくなった。鼻水も出てくる。ポケットからティッシュを出して拭っていた。

 その時だった。

 教室のドアが、勢いよくガタンと開く音がして驚き、私の肩が震えた。

「えっ? なんで泣いているの? 大丈夫?」

 玲奈が眉を寄せ、とても心配した顔でこっちを見ていた。

「えっ? どうしてここに?」

 とにかく驚いた。玲奈の事を考えていたタイミングで、本物の玲奈が現れたのだから。

「それはこっちのセリフだよ」

「……」

「今、玲奈のこと考えてた」

 心配してくれている彼女の前では、自然に本音がこぼれた。

「私もね、優菜の事考えていたの」
 
 もう、私のことなんて、気にしていないのかと思っていた。けれども、たった今、私の事を考えていてくれたなんて。

「……」

 ふたりは無言で見つめ合った。