──……
コツ、コツと靴を鳴らして二人で施設に来ていた。
「小西さんですか?」
「はい。あ、私は友達で宝城です」
「小西さんのご家族から聞いています」
あえて友達という言葉を使い、自分と栞衣奈の名前を告げる。
「行かないほうがいいと思うよ」
そうつぶやく声が聞こえて振り返ると、中学生くらいの男の子が私の目をじっと見てきた。
「渉って人、危ない。“ゆうか”っていう人の名前呼んで……狂ってるよ」
「彰くん、ダメでしょ。そんなこと言っちゃ」
『狂ってる』
……普通なら否定をするのに。否定できない自分にいら立ちを覚えた。
「ごめんなさい。小西さんは、こちらです」
一番奥の部屋で、鍵がかかっているらしく鍵を開けた。
「渉さん、面会の方がみえましたよ」
「どうぞ」
施設の人の後に続いて入ろうとした私の手を握った栞衣奈は、小さく頷くと入ろう、と小さく言った。
「友達ですよ」
「誰だよ―……優歌!?」
私の姿を見た途端、目を大きくした。
私は、渉と目を合わせないで会釈した。
施設の人が驚いた顔で見ている。
男の子が言っていた「ゆうかって人の名前呼んでる」──その優歌がここにいるのだから、無理もない。
「来てくれたんだ!俺の優歌!!」
近寄ろうとする渉を見て私の前に栞衣奈が立った。
かばう様に、渉をまっすぐ見据えて。
「邪魔。どけよ」
「嫌よ……優歌に近付かないで」
「俺の優歌なんだよ!どけ!!」
押そうとした渉に冷たい言葉を発した。
「栞衣奈に手を出したら許さない」
渉の動きが止まる。
「優歌、どうしたんだよ……」
「渉、さよならを言いに来たんだよ。別れよう。もう……無理だよ……」
目線を床に落とす。
「優歌……何言って……俺と優歌は愛し合っているじゃないか!!」
「もう嫌なの!私っ……渉が怖いっ」
暴力をふるわれるのも。ひどいことをされるのも。
耐えられないの。