教室に入ると、やっと息ができる。
あんなに近くに律玖さんがいて。
「どうしたの、優歌……顔真っ赤!!熱であるの?」
栞衣奈が私のおでこを触る。
「──だって」
あんなにドキドキして。
一緒に日向ぼっこして。
その上、しゃべることができた。
二人きりで、だれにも邪魔されることなく、時間を共有することができたのだから。
「ふぅん。好きな人としゃべれたんだ」
「っ!?」
「中等部一年から一緒なのよ?もう、わかるわよ」
勝ち誇った笑みを浮かべ、私のおでこにデコピンをした。
「好きなんかじゃないっ……」
「好きな人と話した時とかの顔してるけど。……席、着こう」
先生が来たので、席に着く。
授業が始まっても、このドキドキは収まらなかった。
──昼になると、また教室で昼食をとる。
みんなはやっぱりいなくて。
「──で、誰なの?好きな人」
「だから、好きじゃないってば」
「何で、否定するのよ」
「だって……違うし。憧れとか、かっこいいなとかいろいろあるけど」
ウインナーを口に運ぶ。
食べていても、味がわからない。
「何か、あるの?その相手に」
「……うん、彼女いる、から」
「本当に!?さすがに、そういう人を好きになるのはダメだよね」
栞衣奈が考えながら頷く。
「それに……渉の事も、あるし」
「渉くんの事は、忘れた方がいいと思う。だって、優歌、苦しんでる」
哀しそうに私を見てくる。
渉だって、苦しんでる。
それなのに、私が離れて行っていいの?好きになった相手、なのに。
「渉が苦しんでるのにいいのかな」
「優しすぎっ!自分の命をかけてまで、傍にいなくちゃいけないの?」
何も答えられなくなる。
首を絞められたことを思い出した。
「もう別れて、新しい恋、したら?」
「──そう、だね」
律玖さん以外の素敵な人に恋をしよう。
彼女がいる人を好きになってはいけないんだもん。
「今日の帰り、施設いく?着いてくよ」
「ありがと」
はっきりさせなくちゃいけないんだ。お互いのために。
昼食時間が終わる。
掃除タイムのため、みんな戻ってきて担当の場所へ向かった。
「よいしょっ、こっちは集められたよ」
「ありがと、優歌。こっちも集まったから、ごみ袋貸して」
外掃除で、ホウキを使い花びらなどを集める。ゴミ袋に詰めると、ダストシュートへ。
「っ!……律玖さん?」
「優歌ちゃん、外掃除だったんだ」
隣には茉璃愛先輩がいた。
「茉璃愛先輩も……」
「ゴミ袋がパンパンね」
クスッと笑って、私が持っているゴミ袋を見た。
「大変なんですよ、桜が沢山おちてて」
「それに比べると、私達はまだいいみたいね。一袋しかないもの」
「羨ましいですー」
「優歌?」
名前を呼ばれただけでも、内容が分かった。
「ごめんね、栞衣奈。こちらが音楽部の部長、東峰茉璃愛先輩。あちらが、牧瀬律玖さん。軽音楽部の部長」
「優歌の親友の栞衣奈です」
栞衣奈がお辞儀する。
二人も、同じようにお辞儀した。
「じゃあ、戻るわね。明日の朝練で」
「はい」
二人の姿を見送ると、栞衣奈がつぶやく。
「律玖さんが好きなんだ。……茉璃愛先輩、がその彼女って所」
「っ!?鋭すぎ……」
栞衣奈が歩きだしたので、慌ててそのあとを追う。
「茉璃愛先輩、って優歌がいつも言ってる人でしょ?さすがに仲のいい人の好きな人はとれないよね」
否定するのも面倒になったので、そのままホウキを片づけた。