──帰り。
音楽室に行くといつも通り、一番だった。
発声練習を終えると、茉璃愛先輩が来た。
「茉璃愛先輩!……あれ?」
「優歌ちゃん。あ、驚いちゃったね。ごめんね」
茉璃愛先輩の隣にいる男性(ひと)に目を疑う。
間違いない。
「私の彼氏の、牧瀬律玖(まきせ りく)くん。軽音楽部の部長さん」
「あっ、昨日の……?」
牧瀬さんも気づいたらしく、軽く会釈する。
「知り合いだった?」
「昨日、牧瀬さんに助けていただいたんです」
「大丈夫だった?」
「はい、本当にありがとうございました」
頭を下げると、慌てて牧瀬さんが言う。
「無事ならいいんだ」
そう言って笑う、牧瀬さんの笑顔に。
吸い込まれそうになる。
その笑顔のまま、あと、と付け足す。
「律玖、でいいよ。名字ってなれないし」
「わかりました」
「律玖くん、ありがとね。着いて来てもらっちゃって」
茉璃愛先輩が申し訳なさそうに云う。
「彼氏なんだから、当たり前だよ。
じゃあ、俺行くね。
じゃあね、……えっと」
言い淀んだ(よどんだ)律玖さんに自分がまだ自己紹介していなかったことに気づく。
「すみません、私、宝城優歌です。私も名前で呼んでくたさい」
「分かった。じゃあね、優歌ちゃん」
爽やかな笑顔を残し、音楽室を去って行った。
「先輩っ、いつの間にあんなかっこいい彼氏さんをつくったんですか?」
「ヒミツッ。私の幼馴染なのよ」
幸せそうに言う先輩は、満面の笑みを零した。
本当に……幸せそう、だった。