「私……」

「言わなくていい。……優歌ちゃんの、気持ちがハッキリしたなら、それは心の中に、とどめておいて。私は優歌ちゃんの、答えが聞きたいわけじゃ、ないから」
「でも、怖くないんですか?」
「優歌ちゃんの、答え?訊かなくても、わかってるから……」

先輩の強がり。
辛いはずなのに一生懸命話してくれる先輩を見て、それが私への優しさなのだと分かった。

こんなに優しい先輩を私は裏切るの?
胸が締め付けられる。


「あっ、律玖さんたちに、目が覚めたって伝えてきますね」

とにかくその場から立ち去りたくて、茉璃愛先輩が止めたのにも返答せずに病室を出た。



「あ、優歌ちゃん」
「律玖さん、茉璃愛先輩の目が覚めました。今から呼びに行こうと」
「ありがとう」

この、優しい暖かな笑顔。私はこの笑顔を見ると安心する。
だけど、律玖さんはもっと違う笑みを茉璃愛先輩に見せている。

嫉妬だと、わかっているけれど。モヤモヤしているのは事実だった。


「いいえっ、失礼しますっ」

お辞儀すると急いで病院を出た。
泣きたくなる気持ちのまま、二人を見ていたくなかった。

走っていると、目のふちから零れ落ちる涙。
止まりそうになる足を無理やり動かした。止まったらきっと──
泣いてしまうから。

私は必死に足を動かした。