栞衣奈と勉強する約束をしていたが、破ってしまったので電話をしている。

「ごめん、茉璃愛先輩の調子が悪くなったから病院にいるの。本当にごめんね」
『いいよ。今日は先輩についていてあげて』
「うん、わかってる」
『じゃあね』
「ばいばい」

電話を切り病室へ向かうと、律玖さんが先に病室に入っていくのが見えた。


「茉璃愛」

病室に入らずに律玖さんを見ると、律玖さんの手が茉璃愛先輩の頬を滑る。

「無理して……。俺に言えって言ったろ?」
「……」
「早く決めねぇと……お前はっ……」

窓から入ってくる日に照らされ、律玖さんの目から零れた雫がきらりと光った。



「茉璃愛っっ」

先輩のご両親が来て、病室に入る。

「叔母さん……」
「律玖くん、茉璃愛はッ……茉璃愛は大丈夫なの!?」
「今は、容態が安定しています。
すみません、家族だと言って先に医師の話を俺が聞きました」
「いいのよ、ありがとう」
「……医師が言っていたことがあるのですが」

言葉に詰まる律玖さんを見ながら、私はできるだけゆっくり歩いて病室に入った。


「失礼します」
「優歌ちゃん……」
「こんにちは」

先輩のご両親にあいさつをする。

「律玖くん、向こうで話しましょう」
「はい」
「律玖さん、私が見ています。何かあったらお知らせしますから」

三人は病室を去って行った。
茉璃愛先輩の頬に触る。

何度、律玖さんにこうしてもらったの?
羨ましいよ。



「……ん」
「先輩?目、覚めました?」

目をゆっくり開いて、手を伸ばす先輩。

「大丈夫ですか?」

手を優しく握った。

「律玖くんは……?」

律玖さんを呼ばないで。
思ってしまう。


「今、お話中です」
「そう、なの……」

少しがっかりしたように病室のドアの方を見た。

「茉璃愛先輩、私はっきりします」

「え?」

茉璃愛先輩は体を起こそうとしたので、寝ているように手で制した。

先輩の顔が曇っている。