震える唇を必死に動かす。
私が、何かを伝えようとすれば茉璃愛先輩は倒れる。

「茉璃愛は、ずっと前に発病したんだ。発病してからも、優歌ちゃんとはずっと……」
「病気、なんですね」

律玖さんが、はっとした顔を見せる。

なんとなく、わかっていた。
信じたくなかったし、信じられなかった。
だから、律玖さんか茉璃愛先輩本人が言うまで信じないで、ただの思い込みだと言い聞かせてきたんだ。

「私、思い当たることがあるんです。先輩を不安にさせるようなこと」

茉璃愛先輩に律玖さんへの気持ちを訊かれ、その質問に答えようとしたら先輩は倒れた。
もし、私に律玖さんの事を好きだと言われたら、という不安があるのかもしれない。

「優歌ちゃんのせいじゃない」

「いいんです。私がハッキリしないから、茉璃愛先輩を苦しめた……これは、事実なんです」


集中治療室から、医師が出てきた。
私達は立ち上がり、医師に近寄る。

「あのッ……」
「今は容体が安定していますが、入院が必要です。親御さんは、いらっしゃいますか」
「もうすぐ来ます」

律玖さんが答える。

「俺が聞きますが」
「ご家族の方ですか?」

律玖さんを見る。

家族──。
もちろん、ただの幼馴染、恋人というだけで家族ではない。


「はい」

目を大きくして、律玖さんを見るが律玖さんは構うことなく医師と話していた。

「では、こちらへ」

律玖さんが、医師についていったのを見送る。

──と、集中治療室から茉璃愛先輩が運び出された。


「先輩っ」
「……」

呼吸器が付けられたま、先輩は眠っていた。

「まだ麻酔が切れていないので、眠っていますよ」

看護師さんが私の顔を見て行った。
そこでやっと安堵のため息をつく。

よかった。

その様子を見ると、看護師さんは「病室へ運びますね」と言って、再び動き出した。

「ありがとうございます」

軽く頭を下げると、スマホが使える場所へと移動した。




「もしもし、栞衣奈?」
『優歌、どうしたの!?いつまでたっても家に来ないし。電話にも出てくれないから心配してたんだよ』