そう言って、先輩の目から一粒涙を零れたのを……私は見逃さなかった。

「茉璃愛先輩、一緒に帰りませんか」

二人、肩を並べて歩く。

「あったかいね」
「はい、文化祭もこれくらいの天気だといいです」
「ね、優歌ちゃんは歌が好き?」

突然の質問に驚いたが、すぐに答えた。

「はい、大好きです」
「……夢ってある?」
「わたし、シンガーソングライターになりたいんです。先輩は?」

茉璃愛先輩はずっと前を見ていた。

「私はね、今を精いっぱい生きて、輝ける人になりたい。ピアニストや看護師……いろいろ昔は夢があったけどね。
気づいたんだ。私は、どこかで輝ければそれで、いいんだって。だから、どこでもいいから、生きたい」

ちょっと照れくさそうに言った。

茉璃愛先輩の、純粋な願い。
きっと叶うよね?

そう思った時だった。

「はっ……ぁっ……」
「っ!!先輩っ」

座り込む先輩を見て、前と同じという事を悟った。
救急車を呼び、待っている間に律玖さんに連絡。

「律玖さん、先輩がっ……」
『南川病院に運んでもらって!すぐ行くから!』

律玖さんの方が先に電話を切った。
私は茉璃愛先輩を励まし続けた。

しばらくすると、救急車で南川病院に運ばれた。


「優歌ちゃん!」

「りっ……く、さん……」


南川病院の集中治療室前の椅子に座っていた私を見つけて、律玖さんは声をかけた。

「顔色悪いけど……大丈夫?」
「せんっ……ぱいっが……」

集中治療室にいるってことは、容態がかなり悪いということ。

「大丈夫、茉璃愛なら……大丈夫だよ」

大丈夫、と言う律玖さんは自分に言い聞かせてるようだった。

私の前で倒れるのは二回目。しかも、その度に容態が悪い。
律玖さんの顔を見ればわかることだった。


「律玖さん……先輩は私に……何か不安を抱いているのでしょうか」
「どうして?」
「不安や、嫌なものを見聞きすると、体の調子が悪くなるというのを、前に聞いたことがあるんです……だから……」