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「ゆーうかっ」
「っ!栞衣奈……」
「もう授業、終わったよ?ボーっとしてどうしたの」
周りを見るとお喋りをしている人が、目に入る。
授業が終わったのにも気づかなかったんだ。
「最近、元気ないし……何かあったら言ってよ」
「栞衣奈……」
「優歌の笑顔が曇るのはいや。いつものように、言っちゃいなさい。ね?」
明るくふるまっているけれど、栞衣奈はきっと気づいている。私が何か隠しているのを。
「ありがと、栞衣奈。でも、私が解決しなければいけないの」
裏切りという名の罪を背負うか、偽(いつわ)りという名の傷を自分につけるか。
……私は、どうすればいい?
「一つ、だけ」
「うん?」
「あたしが知ってる優歌は、素直だよ」
素直、か。
迷っていた私の心を、こんなに当たり前の簡単な言葉が軽くする。
「よしっ、素直、ね!」
日が沈んできて、音楽室にも赤い光が差し込んでくる。
「もうそろそろ終わるよーっ」
茉璃愛先輩の声で皆、片付けを始める。
「茉璃愛先輩、あの」
「優歌ちゃん、お疲れ様。今日もよく声が出てたね」
楽譜を片づけながら、先輩は言う。
「先輩、帰り……残ってくれません?」
「いいよ、曲の事かな?」
笑っている先輩に何も言えなくなる。
みんなが帰った後、茉璃愛先輩は私と向き合った。
「それで何の話?」
「先輩、私……伝えたいことがあって……律玖さ……」
そこまで言うと、茉璃愛先輩が……倒れた。
「っま、茉璃愛先輩っっ!?先輩!!」
「っぁ……ゆっ……かっ……」
「どうしたんですか!?」
「優歌ちゃん、茉璃愛がどうし……茉璃愛!?」
私の声が聞こえたのか、律玖さんが走ってきた。
青い顔をしている先輩を抱き起こす。
「保健室へ……」
「優歌ちゃんは、インターホンで先生に茉璃愛が倒れたことを伝えて!」
「はいっ、わかりました」
ただならぬ雰囲気に、インターホンを取り先生に連絡する。
先生はかなり慌てて、律玖さんに代わるように言った。
「はい、牧瀬です。……はい、東峰茉璃愛です。親を呼んでください。いつもの発作よりひどいので、それを伝えて下さい。
……薬は飲ませました」
発作。
薬。
茉璃愛先輩を見ると、苦しそうにしていて見ていられない。