──……
─…

「……あ」
「優歌ちゃん」
「茉璃愛先輩……?あれ、私?」

目を開けると、茉璃愛先輩の心配そうな顔が見えた。

「気を失ったのよ。ここ、保健室」
「……あっ!授業!?」

飛び起きると、茉璃愛先輩が私の肩を持った。

「無理しちゃだめ。授業は今、二時限目の途中くらい。大丈夫、栞衣奈ちゃんに伝えておいたから」

軽くお辞儀をすると、先輩はにっこり笑った。


「いいえ。…………ねぇ、優歌ちゃん」

笑顔がすっと消した茉璃愛先輩は、私の肩から手を離した。

「先輩、どうかし……」
「優歌ちゃんは、私のコト……裏切ったりしないよね?」
「どういう意味ですか?私が先輩をどうやって……」
「気を、悪くしたらごめんなさい。
……私、優歌ちゃんの事信じてるよ。だけど、奪ったり……しないでね?」

憂(うれ)いを秘めたまなざし──……。
私は頷いて、目をそらした。


「じゃあ、行くね」
「っ先輩!」
「私、優歌ちゃんのこと好きだよ」

私に背中を向けたまま、振り返ることなく先輩は確かにそう言った。


私の気持ちに気づいてる……
そう、わかった。

先輩が保健室を出ていく。



『裏切ったりしないよね?』
その言葉が頭の中で、リフレインする。



「裏切ったり、しない、か」

大体、意味はわかる。
律玖さんをとらないで、そういうことだろう。

手に力を入れる。


──私は、想うことも許されない相手を好きになったんだ。




「宝城さん、起きたの」
「先生」
「もう大丈夫?」
「はい、行きますね……ありがとうございました」

ベッドから降り、保健室から出た。
教室へ戻るも、授業なんか頭に入らなかった。