「やめてっ、渉。私達は別れたんだよ」
「どうしてそういうことばかり言うんだ?まさか、他に好きな奴がいるのか?」
「違うっ。好きな人なんて……い、いないよ……」

勢いよく言ったものの、後尾を小さくなってしまった。
目線を下に向けると律玖さんの顔が思い浮かんだ。

「やっぱり、俺から優歌を奪おうとしてる奴がいるのか」
「だから、違うよ!律玖さんは関係ないっ!!」

とっさに名前を言ってしまったが、後悔してももう遅い。
渉の目つきが変わった。

「律玖っていうんだ。そいつに消えてもらわなきゃいけないよな~」
「やめてっっ、律玖さんには何もしないでっ!!」

渉がにやりと笑う。

「俺から優歌を奪った奴に、何もしない方がおかしいよ」
「私の意志で渉と別れたのっ!律玖さんには、彼女もいる、私の片想いなの」

片想い。
──そう。私は、律玖さんに恋をしてるんだ。



「渉……私が渉を愛せなくなっただけ!嫌いなのよ!!」

渉の動きが止まったかと思ったらすぐに私を叩いてきた。

「きゃぁっ!!」


その時、ガチャッと屋上の扉が開いた。

「優歌ちゃん!?」
「先輩っ……」

律玖さんなんて呼んだら、渉が何をするかわからない。
だから、先輩と呼んだ。


「優歌、もう一度言ってみろよ!!」

律玖さんに構うことなく、私を叩いてくる。
律玖さんが慌てて助けに来る。

「やめろ!!」
「……」

渉が律玖さんを睨みつけた。

「あのときの奴か」
「渉っ、やめっ」
「優歌は、俺の女だ」

手を出そうとした渉の手にしがみつく。

「離せ、優歌!!」
「誰かっ……誰か来てぇーーーっ!!」

大きな声を出すと、茉璃愛先輩の声が聞こえた。

「こっちですっ。早く来てください」
「茉璃愛先輩……?」

警備の人が何人か来て渉を取り押さえる。

「大丈夫?律玖くん、優歌ちゃん」
「せんっ……ぱいっ」
「優歌ちゃんに声をかけようとしたら、誰かと話してたの、見えて。優歌ちゃんが危ないと思って、呼びに行ってたの」

ぼろぼろと涙が流れる。
茉璃愛先輩がハンカチをくれて、受け取り拭いた。

「ッ……うっぁっく……」
「優歌、また来るからな!!」

渉を見ると笑っていた。
警備の人が渉を連れていく。

「っっ」

崩れるように、私は倒れた。

「しっかりして、優歌ちゃんっ」
「茉璃愛、俺が運ぶ。茉璃愛は保険医の先生に説明してきてくれ」