──……
翌朝、屋上のドアを開けると風がどぉっと吹いた。
「いない……」
数歩進んで、手すりに手をかけた。
「まだ、朝早いし。来ないよね、さすがに」
一人小さく笑って、遠くを見る。
律玖さんに会うために屋上に来た自分に驚いている。
会うために、なんて……。
「優歌ちゃん?」
「り、く……さん」
振り返ると、確かに律玖さんはいた。
「どうしたの、こんなに早く」
「律玖さんこそ……」
「自主練だよ」
律玖さんが笑うと胸がとくんと鳴る。
いや、姿を見たときからこの胸の高鳴りはあった。
「律玖さん、昨日……茉璃愛先輩とどこに行ってたんですか?」
「えっ?」
「あっ、二人で帰って行ったじゃないですか、だから気になって……。
昼休みに会った時、茉璃愛先輩が顔色悪かったから……心配も……あの……」
一生懸命言うと、律玖さんが目をすっと細めた。
「顔色が悪かった?」
「はいっ……だから、病院にでも行ったのかと」
難しい顔をして黙る、律玖さん。
本当に病院へ行ったの?
不安がよぎる中、律玖さんの口が開いた。
「そんな不安な顔、しないで。茉璃愛、風邪ひいたらしくって。だから、病院へ行ってたんだ。大丈夫、何も心配いらないから」
いつもの笑顔のはずなのに、どこか、哀しみを隠しているような。苦しみを秘めているような。
そんな笑顔に見えて、胸がしめつけられるような思いがあった。
「優歌ちゃん?」
「律玖さんは、茉璃愛先輩のこと、好きですか?」
「えっ!」
驚くと顔を赤くした。
「いきなりすみません。茉璃愛先輩と幼馴染なんですよね?幼馴染だから、とか……付き合っているのには何か、理由があるのかなって……思ってしまうんです。
失礼なことを言っているのは分かっていますっ。……でも、気になるんです」
私に近付いてくる律玖さん。
そして、隣に来ると答えてくれた。
「好きだよ。確かにアイツは……少し事情があるけど、幼馴染というだけで付き合ったりはしてない」