「できました、先輩」
「早いね、見せてもらっていい?」
「はい、お願いします」

じっと真剣な目で私の書いた詞を見ている。
ドキドキして目をぎっゅっと瞑(つむ)る。

「いい!」
「えっ……?」
「すごくいいっ。私、好きだよ、この詞」

茉璃愛先輩の言葉に、目をパッとあける。
先輩は嬉しそうにその詞を見ていた。

「こんないい詞が書けるなんてうらやましい」
「褒めすぎですっっ」

この詞は先輩の曲があったから、書けたんです。

そう言おうとしたら茉璃愛先輩は首を横に振った。言わなくていい、という様に──


「私も、作詞しちゃおうかな」
「私、先輩の作詞したの、見てみたいです」
「冗談よ。優歌ちゃんの歌詞に比べたら、まだまだだもの。恥ずかしくて、見せられないわ」

いたずらっぽく笑うと再び、曲の構成を練り始めた。
CDでるのなら、律玖さんに聴いてもらえるかな。思い切って渡してみようか。


「茉璃愛」

優しい声の主が姿を現した。
律玖さん……


「律玖くん、どうしたの?」
「今日は……だろ?」

だろ、としか言っていないのに、茉璃愛先輩は慌てて片付けて荷物を持ち、律玖さんのもとへ行った。

しばらく言葉を交わすと、先に帰るね、と言って二人で音楽室を去って行った。


「茉璃愛部長、デートかなー」
「部活、早退してデートはないでしょ」

色んな声が飛び交う。

デート?
二人は恋人。当たり前のことなのに。
胸が痛くなるのは、なぜ?

「部長だから、何かあるのかな」

律玖さんと二人で?
答えはいくら考えても出てこなかった。









「何、浮かない顔してるの?」
「っ!栞衣奈……」

一人で帰ろうとしたら、栞衣奈が姿を見せた。

「委員会の集まりで遅くなったの。優歌と一緒に帰りたくて、待ってた」


夕日に赤く染められた道を歩きながら栞衣奈に悩んでいることを話した。

栞衣奈の答えはすぐで。

「気になるよね、牧瀬さんがかかわってるし」
「律玖さんの事は違うってば」

好きになっちゃいけない、ずっと言い聞かせるように言ってきた。

「素直になろう?好きになっちゃいけない人でも、想うのは自由だと思う。告白するか、しないかは優歌が決めればいい。
想うだけなら、迷惑にならない」

栞衣奈が私の手を握った。
想うだけなら、許されるの?

「ゆっくり考えてみる。律玖さんへの気持ち」
「うん」

満足そうに頷いて、そんな栞衣奈につられて微笑した。
それから、一回も言葉を交わさなかった。