軽やかなベルの音が、学園内に響き渡る。
生徒たちは、午前中の授業から解き放たれ、友達とともに教室から姿を消した。
「やっと終わったぁ……」
「先生にあてられて、大変だったね優歌」
瀬谷崎学園高等部に通う私、宝城優歌(ほうじょう ゆうか)は、一年生になったばかり。
中等部のころから通っているので、学園のことはよく知っている。
私の親友である、栞衣奈(しいな)はしっかり者で、勉強もよくできる憧れの人だ。
「何とか答えられたけどね」
ため息をつきつつも、用具をしまう。
「あ、今日のお昼はどこで食べる?屋上はもう、取られていると思うけど」
いつも屋上で食べているけれど、今日はこんな話をしていたから、みんなの姿はなく。
人気の屋上は既に取られているだろう。
他の人気場所は、中庭、食堂など。
「あ~……教室で食べる?」
ぽかぽかの日が、窓から差し込んでいる。
外で食べるのもいいけど、たまには中でもいいよね。
栞衣奈が私の席まで来て、お弁当を広げる。
栞衣奈のお弁当は相変わらずきれいで、おいしそう。
「ねぇ、優歌?訊いていい?」
「んー?」
卵焼きを口に入れた時、栞衣奈がふと、そう言った。
栞衣奈の箸が止まる。
「渉(わたる)くんのコト……」
渉─小西渉(こにし わたる)─は私の彼氏だ。
でも、父親を亡くしてからおかしくなってしまった。
私の好きな渉はもう、いない。
「だいぶ前から、施設に入っているんだって……おばさんが言ってた。
今の渉は、怖いし……私としては……」
遠くを見るような目をしながら言う。
渉は私に、暴力を振ってきたりする。
だから─怖い。
「ごめんね、変なこと訊いて」
「ううん、いいんだ。……ね、栞衣奈」
「どうした?」
箸を置き、お願いのポーズをした。
「お願いっ!数学の宿題、見せて?」
「またぁ?明日までだよ、その宿題」
呆れた顔をして、再び箸を動かす。
「お願いっっ!!……だめ?」
「……もう、仕方ないわね。いいわよ、条件付きで」
「クレープ、おごるよ!!」
「新発売のねっ」
栞衣奈はかなりの甘いモノ好きで、新しいスウィーツやクレープなどが出ると、すぐ食べに行く。
「今日は用事があるから、渡しておくだけ渡しとくね」
「ありがと!恩に着るよ」