月乃さんは悪びれることなく語った。二人の前を流れる川のようにスラスラと。
 さっき渡されたこの小説の作者が人気の覆面作家で、最近発売されたこれの舞台がこの町だという説があるそうなのだ。
「ほら、座ってる階段の位置とか、自転車の置き場所まで一緒」
 君がここにいる、とはそういうことだった。

 本は星也くんに貸して、この日は帰った。
 振り返る彼は笑顔だった。
 よかった。
 ついこの前、彼がこの町に来たのは、母親の地元だから。離婚して親子で出戻ったらしい。……噂の限りだけど。
 心の中限定でため息をつく。
 いつだって周りは無責任で排他的で、そのくせ勝手に盛り上がることだけは人一倍だ。