前話の『試着する話』の続きになります。
昨晩、上記の作品を書いたあと、僕はずっと気になっていました。
それは例のおじさんが試着した女児服の行方です。
妻に聞きました。
「ねぇ、あの子供服屋で働いていた時の変態おじさん覚えてる?」
「あー、いたね。そんな人」
妻は特に「きもちわる」みたいな反応はなく、淡々と話を続けました。
とりあえず、僕はそのお客さんと店長のやりとりを詳しく聞いてみました。
妻曰く、試着室に呼ばれるのは店長さんだけで、その女性に見られる(女装)のが目的だったそうです。
なので、一回も購入することはなく、息遣いを荒くして店長さんを試着室で待っていて、
店長さんはそのお客さんが来ると、接客後に気分を悪くして、吐き気を感じていたそうです。
僕は言いました。
「なぜ追い返さないの? だって購入しないなら、追い返せるでしょ? それに試着室は子供用じゃん」
「わかんない、お客さんだからじゃない? 他にも成人の女性だけど試着する人いたもん。ただその人は買ってくれたよ」
それもそれで、なんか変な趣味だと思いました。
肝心の試着したあと(女児服)を妻が答えくれました。
「あ、あれね。たぶん、そのあとフツーに戻したか、売ってたと思うよ」
「ええ!? 破棄しないの」
「うん」
妻は特になんとも驚かず答えました。
日常的なことだったようで、たぶん僕の妻も感覚がおかしくなっていたのだと思います。
ただ、今思えば、妻が働いていた子供服の店はどちらかというと、ブランドものばかり扱っている店でした。
子供っていうのは大人と違って、成長するので、高い服はなかなか買わないんですよね。
それこそ、お祝いごととか、人からもらうとか。
すぐにサイズが合わなくなるなので、僕も親になってから「ああ、あの店は自分だったら買わないな」ていう値段です。
妻も当時、販売していたお客さんはほぼ、ママ友の子供の誕生日とか、おばあちゃんが孫にとか……で。
ちょっと高級な服なので、気軽に親子で買うような店ではないんです。セールの時は違いますけど。
僕がなにを言いたいのかというと。
「つまりそのおじさんが着たあと、汗でビシャビシャになった、伸びた服は売ってたんだね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、可愛い孫(女の子)のために、おばあちゃんが買ったプレゼントはおっさんの着てたやつかもしれないの?」
「うん、そうだよ」
「娘のプレゼントにって、お母さんが試着させるときも、ひょっとして……」
「うん、そうだよ」
「……」
その店はすぐに潰れました。
僕は幼いころからアトピーが酷く、特に小学生のころはいつも体中をかきまくっていました。
別にいやらしい意味ではないのですが、乳首をよくかいてました。
乾燥しやすかったんだと思います。
毎日、風呂上りにボリボリかいていると、少し腫れあがってきました。
小学生ぐらいのときです。
その姿を見て、中学生の兄がこう言いました。
「お前、そんなに乳首かいていると、とれるぞ」
僕は笑いました。
「とれるわけないじゃん。お兄ちゃん、なに、バカなこといってんの」
そう言うと、兄は怒りました。
「冗談じゃないぞ!」
「え?」
「本当にとれるんだからなっ!」
てっきり年の離れた弟をからかっているんだろうと思いました。
しかし、兄は真剣な顔でこう言いました。
「お兄ちゃんの友達で乳首とれたやついるぞ!」
「ウソッ!?」
「本当だ」
兄が所属していた野球部で起きたことらしいです。
部活を終えて、部室で着替えていた男友達が、毎日のように「あー乳首かいい」と言ってかきむしっていたそうです。
それを兄は毎日見ていたそうで、部室内でもみんなでいつものことだと笑っていたらしいのです。
しかし、ある日、その友達が「かいーーー」とかいていると、ボトンと片方の乳首が床に落ちたそうで。
ビックリしたその人は乳首を持って、病院に向かいました。
手術で再生させるのだろうと思っていたそうです。
診察した医師はこう言ったそうです。
「男性ですし、今後、使うことはないでしょう。手術は必要ないですよ。そのままで大丈夫です」
そう言われて、結局、その人はその日から片方だけ、乳首がなくなってしまったそうです。
兄は幼い僕に厳しく言いました。
「お前も乳首落としたくなかったら、もうあんまりかくなよ!」
「うん、わかった」
その日以来、僕は兄のいいつけをまもるようになりました。
まだ僕が産まれる前の話です。
1970年代、兄が味噌村家に長男として誕生しました。
たぶん新生児ぐらいで、動いたりすることもない寝てばかりの赤ちゃんです。
当時、奈良に住んでいて、あの有名な法隆寺の近くに住んでいたそうです。
畑に囲まれたアパートで、まだ現代のように街灯なども少なかったとききます。
僕のお袋が、夜、ベランダで洗濯物を干していたそうな。
先ほども言った通り、辺りは一面、畑のみです。
とても静かで、車も中々通らず、ひともあまり歩いていません。
そんな中、お袋が服を竿にかけていると、畑の向こう側で二つの光りに気がついたそうです。
目を凝らして、よく見ると、その小さな光は徐々に、こちらへと近づいてきます。
一定の間をおいて、スッ、スッ、スッ、と動きます。
どうしても気になったお袋は、しばらくその光が何か確かめようとしました。
「……ッ!」
やっと『それ』がなにかわかったそうです。
正体は人間でした。
つなぎ服をきた無精ひげの男がじーっと、こちらを見ていたそうです。
目と目が合うと、お袋は怖くなり、すぐにベランダから家の中に逃げ込み、窓の鍵を閉めました。
親父は仕事が忙しく、まだ帰宅していませんでした。
危険を感じたお袋は、自宅のドアの鍵もしめたそうです。
もう一度、窓から外をのぞくと、男の姿がありませんでした。
ホッとしたのも束の間……。
ガタガタガタッ!
何やら玄関が騒がしい。
恐る恐る近づくと、ドアノブが激しく回っていたそうです。
これはもう危ないと感じたお袋は、警察に電話を入れました。
ですが、田舎ですし、当時は携帯電話もなかったので、中々パトカーは着ません。
その間もずっと、ドアノブはガチャガチャいっていたそうです。
男は開かない扉に諦めたのか、静かになりました。
お袋が男が去ったかと玄関に向かおうとした瞬間、ドア下に備え付けられていたポスト口が、バンッ! と開きました。
ドア越しに目があったそうです。
男は笑うわけでも怒るわけでもなく、無表情でお袋を見つめていたそうです。
お袋は怖くて腰を抜かしたそうな。
しばらく家の中を見ていた男でしたが、飽きたようで、黙って去っていきました。
僕はこの話を聞いて思いました。
もし、お袋が窓とドアのカギを閉めなかったら、僕という命は生まれなかったのかもしれない……と。
2006年の年明け。
お袋方のおじいちゃんが逝った。
たぶん83歳ぐらい。
親父方のおじいちゃんとは違い、酒を飲んでも暴れないし、孫である僕たちに優しく接してくれた。
本当にいい人だった。
妻であるおばあちゃんが、後妻だったため、お袋とは血が繋がってない。
だからあまりおばあちゃんとは接する機会がなかった。
その分といってはなんだけど、僕たちに溢れんばかりの愛情を注いでくれた。
急に倒れて亡くなったから、悲しむ間もなかった。
お袋は死ぬ前に間に合った。
その後、遅れて僕と親父がバスで鹿児島に向かう。
葬式では坊さんが生前のおじいちゃんの話をしてくれた。
「正義感が強く、とても優しい人だった」
「夏の暑い日はアイスクリームをたくさん買って、公園で子供たちに配り、紙芝居を聞かせてくれた」
「また還暦を迎えてからも勉強熱心で、いろんなサークルに入ったり、テニスをはじめたり……」
それらを聞きながら、僕は少しずつだが、涙を流すことができた。
~2週間後~
僕と親父は先に、地元の福岡に戻っていた。
娘であるお袋は、兄妹の叔母と叔父、それから妻であるおばあちゃんの4人で、遺品を整理したりしていた。
おじいちゃんは物持ちが良い人で、家の中にもたくさんの本を所有していた。
ただ、僕はおじいちゃんが生前の時から、家の壁をみて、不思議に思うところがあった。
それはポスターだらけなのだ。
女性芸能人、アイドルばかり。
それらが壁一面に貼られていた。
お袋に聞くと、妻であるおばあちゃんが壁紙の色が気に食わないと理由で、隠しているらしい。
それにしてもアイドルである必要があるか?
鹿児島からお袋が疲れて帰ってきた。
お袋が夜、酒を飲みながら話し出した。
どうやら、倉庫から遺品がたくさん出てきたらしく。
その中に、おじいちゃんからしたら、「見ちゃイヤン」なものが大量にでてきたらしい。
お袋と叔父が買い出しに出かけているとき、おばあちゃんと娘の叔母がそれを見つけた。
一つのアルバム。
叔母は「ああ、お父さん写真好きだったもんね」と懐かしむ思いで、ページを開いたそうな……。
だが、そこには叔母が望む写真はなく、見知らぬ女性が映っていた。
若い女性があられもない姿で、イスに座っている。
つまり、ヌード写真である。
これが妻であるおばあちゃんだったら、まだよかっただろうが。
葬式で坊さんがいったように、僕のおじいちゃんは還暦を迎えてから、色々なことにチャレンジしていた。
とあるサークルに加入し、みんなでお金を出し合って、ヌードモデルを雇い、撮影会を楽しんだらしい。
それを後にきいた叔父は、妹の叔母にこう言ったらしい。
「ええ!? 親父が?」
「そうなのよ、信じらない」
叔母は気持ち悪いといった感じで答えた。
だが、叔父はそんなことは無視し、前のめりでこう言った。
「その写真、どこにあんの!?」
「ないわよ! 気持ち悪いからすぐ捨てた!」
「えぇ~ 見たかったのにぃ~」
親も親なら子も子である。
僕はどちらかというと、お袋側の血筋に似ている。
真面目な方だし、正義感は強いし、曲がったことが大嫌いだ。
ただ、先ほどの叔父の発言の通りだ。
基本変態の家系なのだ。
それもムッツリスケベ。
僕も叔父の立場だったら、絶対に「見たい!」と言っていただろう。
この話の教訓として、もし僕がある日死んでしまったら、押し入れになるムフフなグッズはどうすればいいのだろう。
僕にも娘が二人いる。
愛すべき娘たちによって、捨てられるのだろうか?
父の威厳とともに……。
高校生の頃、すごく頭の良い友人がいた。
なんで、こんな優秀な人が同じ高校に? ってぐらい成績良くて、勉強熱心。
口を開けば、真面目な話ばかり。
主にテストや教科書のばかりで、僕は正直「この子とは話が合わないなぁ」と思っていた。
毎日、勉強のことしか、考えてなくて、相手をしていると疲れる。
別に勉強熱心なのは、すごいことだけど、あまりにもスイッチが入りっぱなしで疲れる。
僕は友人として、くだらない話がしたかった。
当時流行っていたゲーム、アイドル、テレビの話。
だが、彼はそういう流行には疎い人で、浦島太郎と話しているような感覚に陥った。
仕方ないから、僕は黙って彼の勉強話を聞くことにした。
噛み合わない話より、聞き役に徹している方が楽だから……。
だが、ある日。
急に彼と勉強以外の話で、盛り上がった。
深夜の芸人ラジオでゲストとして「大人向き映画」のレジェンド男優が出演した回を僕が話したからだ。
僕は真面目な彼はこんな話は嫌うだろうなぁぐらいで話したのだが、予想と反してかなり興奮していた。
「味噌村も聞いたのか!? あのレジェンドの話! すごいよな!」
僕はまさかここまで、彼が男優のことを好きとは思わずビックリした。
「そうだ! 今度俺ん家に遊びに来いよ! レジェンドの名作、いっぱいあるからさ!」
「えぇ……」
それまで、勉強の話しかしなかった彼と急に仲良くなった。
というか、単に彼が無知な僕に色々教えたかったらしい。
翌日、彼のマンションに遊びにいった。
部屋に入ると膨大な数の参考書がギッシリ詰まった大きな本棚が壁を覆っていた。
だが、そこには参考書だけではなく、難しい文章の隣には、裸体の女性が……。
パズルのように、参考書、エロビデオ、参考書、エロマンガ、辞書、エロビデオ、エロ……。
年頃の青年が恥ずかしげもなく、本棚にランダムな並べ方をしていた。
「味噌村! 好きなの持っていけよ!」
「え?」
「おすすめはこれだな!」
ほぼ、押しつけられるようにビデオを4本も借りてしまった。
それからしばらくして、彼とよく大人向けの店に遊びにいくようになった。
彼が入念にリサーチした作品を見に行くのだ。
パッケージを選ぶ彼は、教科書を読んでいる時よりも真剣な眼差しだ。
「ダメだ……。今日はハズレばかりだよ」
お目当ての品がなく、肩を落とす。
この間かかった時間は二時間ほど。
それぐらい彼の買い物は真剣なのだ。
曰く「俺は絶対に失敗したくないんだ」という理由で、数時間もかけて作品を選ぶらしい。
僕はほとんど買わない。
彼の買い物に付き合うのは、本当に疲れていたので、あきらめてくれたことにほっとしていた。
店から出ようとしたその時だった。
彼の足が止まる。
「お、おい! 味噌村! これ見ろよ!」
そういって一つのパッケージを僕に見せつける。
その名も「出産」
僕はそれを見てドン引きした。
一応、自身の目でも確認したが、内容はただ妊婦が出産するというものだった。
「これ、当たりじゃないか!?」
偉く嬉しそうに目をキラキラと輝かせていた。
「ねぇ、これをどうすんの?」
一応聞いてみる。
「いやぁ。俺、興奮してきたわ」
そういう彼は息が荒い。
ここまで歪んだ癖を持っていたことに、友人として、僕は驚きを隠せなかった。
「これはやめなよ。ただの出産だよ? 買ってどうすんの?」
「ライトな味噌村にはわかんねぇんだよ。俺までの境地に入ると、これぐらいハードじゃなきゃ、興奮できないのさ」
どや顔で語る彼。
このままでは1人の友が帰ってこれなくなると思った僕は必死に彼を説得した。
「やめときなよ。人の趣味にとやかく言うつもりはないけど、これは人としてダメだと思うよ? 赤ちゃんが生まれるていう映像じゃない?」
「……」
僕が必死に話しかけるが、彼はずっとパッケージを黙って眺めていた。
結局、買わずに店を出れた。
だが数日後……。
一通のメールが携帯電話に届く。
彼からだ。
「味噌村! この前のビデオ、やっぱ悩んだ末に買ったわ! すっごく良い作品だったから、お前にも今度貸してやるよ!」
僕はそれだけは嫌だと頑なに断った。
そんな歪んだ性癖を持つ彼だが、国内でも5本の指に入る難関大学に合格した。
天才はやはり、違うなと思った。
僕には今、二人の娘がいる。
長女が小学二年生、次女は保育園の6歳。
そんなまだ幼い二人だが、本や漫画が大好きで色んな作品を読みあさっている。
持っている漫画を読み尽くした長女が僕に言う。
「ねぇ、パパの本棚のやつ。読みたい」
僕は戸惑った。
娘たちに買い与えていたのは、少女マンガや日常系のマンガばかりで、平和な世界しか知らない。
父親である僕は、どちらかというと、グロい系や暴力系、アングラ系。
それから男の娘、女体化ものが一番好きだ。
しばらくは貸せないと断っていたが、長女があまりにもしつこいので、ある日有名な少年マンガ「トラ●る」を貸すと見事にハマってしまう。
パンチラシーンやパイチラシーンでゲラゲラ笑って、それを妹に見せつけ、ついには次女までエッチなシーンの虜になってしまった。
長女が次に僕の本棚に目をつけたのは、女体化ものだった。
この作品もかなりエッチなものだったが、それを所持している父親の僕を軽蔑するどころか、娘は「ねぇねぇ次の巻は!?」と催促してくる始末だ。
しまいには、女体化ものと知らずに、おじいちゃんである僕の親父と一緒に古本屋で大声で「女体化のやつください!」とレジの兄ちゃんに叫んだぐらいだ。
そんな長女だが、エッチ系は読めても、バトルもの。特にグロい表現は苦手。
一年ぐらい前から流行っている某少年マンガ。妹を助けるために主人公が鬼を倒す作品。
僕はアニメ化する前からおもしろい作品だなぁと思っていた。
そして、アニメ化とともに、日本中で流行りだした。
小学校や保育園でも、子供たちが喜ぶからと、先生がDVDを流したりしたらしい。
耐性のない娘たちはトラウマになり、あの作品を怖がり、嫌うようになってしまった……。
だが、YouTubeなどでパロディ動画などを見た娘は少しずつ興味がわき、テレビの再放送を見て、最近遅れたマイブームがきたらしい。
今では、毎日作中の技を真似するほどで、グッズを買い集めている。
そんなことがあって、しばらくして。
早朝、僕は水を飲みにリビングに向かうと、長女がタオルケットを頭から被り、なにやらモソモソしていた。
不審に思った僕は、タオルケットを取り上げる。
そこにはスマホを持った長女がニヤニヤと笑っていた。
僕は、色々と物騒な世の中だからとスマホを持たしている。
扱えるのは電話とSMSぐらい。
あとはキャリアのアプリ特典ぐらいだ。
キッズケータイで良かったのだが、スマホにすれば、一円と店の人に勧められたからだ。
最近はやたらとスマホを触るなと思っていたが、この日やっとその意味がわかった。
ブラウザを使えないように、権限で管理していたのだが、どこで覚えたのか、Goo●leで検索していたらしい。
僕は日頃からインターネットはちゃんと勉強してからと口をすっぱくして注意していた。
父親に見つかった娘はいつになく、しゅんとしていた。
とりあえず、Goo●leで検索できないように設定しなおそうとしたその時だった。
履歴を確認すると、とあるワードが……。
炭●郎 エロい
伊●助 エロい
善● エロい
「……」
僕は怖くなってそっとスマホを閉じた。
まさかとは思ったが、保育園児の次女の履歴も見ると、同様の検索履歴が……。
とりあえず注意しておいた。
その話を夜、妻に報告した。
妻は「ああ、やっぱり」と知っているような反応だった。
僕はどういうこと? と聞き返すと、妻がこう言った。
「この前、冗談で『煉●さんとか人気だけど、ひょっとして、‟そういうの”あるのかな?』って言ったんよ」
と、二次創作の話を長女にしたらしい。
それを聞いた娘は平然とした顔でこう答えたらしい。
「あるよ」
「え?」
「だから、あるよ。ほら」
といって妻のスマホを使って検索しだし、ガチなイラストを妻に見せつけた。
そこには、煉●さんの刀を主人公が「うまい、うまい!」している生々しいものだったらしい……。
ビックリした妻は「ちょっと! これガチじゃない! 早く消しなさい!」と叱ったらしい。
僕はそれを聞いて、恐怖を覚えた。
長女の祖母、つまり僕の母は齢70を越えるおばあちゃんなのだが、杖をついてでもBL本を漁る腐女子だ。
そして、息子の僕は男の娘ものが大好き。
そのまた娘の長女はまだ小学二年生だというのに、もう知識として「それ」を知ってしまったのだ。
きっと大人になった娘は、僕や母を越える変態さんになるのかもしれない……。
よもやよもやだ。
妻がママ友から聞いた話。
いわゆる、女性同士でしか話さない女子トークというやつだ。
そのママ友・A子さんは小学生の息子をサッカー教室に通わせている。
通っているうちに、そこでA子さんは人付き合いが苦手ながらも、他のお母さんたちとグループを作ったそうな。
うちの妻もA子さんもママ友というのが、苦手らしい。
女子特有のめんどくさい繋がりが嫌いなのだとか。
サッカー教室の先生は若い男性。
イケメンで筋肉ムキッムキな好青年。
笑顔が似合うナイスガイ。
子供たちからも慕われ、大人気だ。
その人気はママさんたちも同様。
自分の子供そっちのけで、コーチに声援をおくっていたとか……。
ある日、A子さんがいつものように、サッカー教室のお母さんたちとバスの送迎を待っているときだった。
一人のママ友、ビチ子さんが嬉しそうにこう語りだした。
「ねぇ聞いてよぉ~ この前、コーチ食べちゃったわぁ♪」
それを聞いたA子さんはドン引きして、固まってしまったそうだ。
周囲のママ友は「ウッソォ~?」と話にくいつく。
「この前、泊りがけで不倫してきたけどさ~ 若くてスタミナありすぎて疲れちゃったわぁ~ 二回も迫られちゃってさぁ」
「「「キャーッ!!!」」」
湧き上がる歓声。それに反して引きつった笑顔で黙り込むA子さん。
ビチ子さんの話では、サッカー教室に通わせている息子を旦那に預けて、「友達と旅行してくる」とウソをつき、一泊したのだとか。
つまり不倫するために、旦那さんは子守りをしていたことになる。
A子さんは、そんな不倫話を自慢しているビチ子さんに違和感を感じたそうだ。
「食ってやったわっ! あの若いコーチ!」
「「「すごいっ!!!」」」
A子さんはその後、グループから距離を置いたそうだ……。
僕はこの話を聞いておもったのは、その場に男がいてもビチ子さんは自慢してくれたのだろうか? と思いました。
高校3年生の時。
僕は18歳になったので、大人向けの映画をレンタルショップで借りたりしていた。
だが、自慢じゃないが、僕はどうもそういう作品は好きじゃなかった。
成人向けレンタルしといて格好つけてんじゃねーよとツッコミを入れたいと思いますが……。
こう見えてロマンチストでして。
なんというか、女性が一方的に痛そうに男優から「おらぁ!」とか「ドヤァ!」てのが多く感じて、相互ラブみたいなのがあまりない印象でした。(これは僕が見てきたものなので、探せばあったかもしれません)
あくまでも同意の上で、イチャこかないと、見ている僕は「うわぁ、痛そう……」「キッツ…」とドン引きしていることが多数でした。
そんな時、とあるレーベルを見つけました。
その名も巨乳シリーズ。
ありがちな童貞キラーなタイトルでした。
この作品はあまり痛いことしないし、どちらかというと女性もケラケラ笑っていることが多かったです。
相互ラブもあったし、イチャラブの傾向が強い気がしました。あくまでも20年ぐらい前の話です。
その中でも気に入ったのは、秘書シリーズでした。
何回もレンタルするぐらい好きになりました。
なので、親に内緒でネットオークションでDVDを購入。
あまりにも素晴らしかった内容に感動した僕は、高校の友達に話をしました。
すると若い男子のみんなはこぞって、目をキラキラと輝かせこう言うのです。
「味噌村! 今度学校に持ってきて!」
言われた僕は、少し手放すのが寂しく感じましたが、ここは男同士、いいものは共有しあわないとなぁと感じ、快くDVDを友達に貸しました。
翌日、学校に行くと友達は、興奮気味にこう言いました。
「味噌村! あれ、すげーな! しばらく貸してくれよ!」
「え……」
たちまち、クラスで僕のDVDは評判になりました。
すると、まだ友達に貸している状態なのに、他の男子生徒が「俺にも貸して」「僕にも」と次々にリクエストが飛び交いました。
僕に返ってくることなく、DVDは友達から友達へ……どんどん数珠つなぎのように、回されていきます。
男子生徒たちは、嬉しそうに僕に言います。
「味噌村! ありがとな! 自分的には90点だわ!」
「中々返したくなかったけど、他の奴が早く早くってうるさいから貸したわ」
みんなやりたい放題でした。
女子の目の前で、グシャグシャになった茶封筒を堂々と、教室の中で毎日前から後ろへ、右から左へ……気がつくと、隣りのクラスにまで、行ってしまう始末。
年末に一人の友人に貸してから、数ヶ月。
既に僕は大学受験に合格し、卒業間近となりました。
いい加減、返してもらわないと、僕も嫌だったので、いろんな友達に現在、所有している人物を聞くことになりました。
皆、ニヤニヤ笑いながら「ああ、アレねぇ。良かったわぁ。あいつに貸したわ」と言うばかり。
僕がききまわっていると、40人以上が見たと回答が返ってきました。
知らず知らずのうちに、こんなにも見られているとは……とても困惑しました。
最後の一人に「DVD知らないか?」と尋ねると、意外な人物が現在、手にしていることがわかりました。
「秘書ものだろ? メガネ先生が借りてったよ」
「ええ!?」
メガネ先生というのは、とても真面目な教師で教育熱心、生徒たちからも人気でした。
まさかあのメガネ先生が、巨乳シリーズを、ましてや生徒のDVDを勝手に拝借しているだなんて……。
とんだ卒業祝いだなと思いました。
職員室に入って、メガネ先生に声をかけます。
もちろん、小声で。
「先生、僕のDVD持っているって本当ですか?」
僕がそう言うと、先生は苦笑いで答えました。
「あ、うん。悪いな味噌村。卒業前なのにさ……俺、今から帰りだから車で送ってやるよ。その時に、な」
先生はウインクして、ニヤッと笑いました。
僕はメガネ先生の車に乗って、家の近くまで送ってもらいました。
思っていたより、先生は成人向けの映画が大好きらしく、僕の持っていたDVDをかなり気に入ったそうです。
数ヶ月ぶりに返却されたDVDはボロボロで、ケースも傷だらけ。
一応、新品で買ったはずなのに……。
車内で先生はこう言いました。
「味噌村はセンスあるなぁ。大学行ってもがんばれよ」
メガネ先生とはあまり話したことないのに、なんで学業とは関係のないところで褒められているのだろうか? と感じました。
その後、風の噂ではメガネ先生は高校教師をやめて、夢だった小学校の教師になったそうです。
幼い子供たちと、笑って楽しく過ごしていることを切に願っております……。
まだ僕と妻が付き合いはじめころの話だ。
僕が二十歳で彼女が十八才。
彼女が言うには、人生で痴漢にあったことがない。
周りの女友達はたくさん尻を触られるのに「私だけされたことがない」となぜか怒っていた。
まあ当然彼氏の僕は、そんな経験必要ない。むしろやられたら、怒るよと諭していた。
彼女曰く、女として魅力がないからじゃないか? と疑っていた。
ちょっと僕にはわからない感覚だった。
好きでもない男に触られて嬉しいか? ということ。
そう彼女に伝えても、女としての意地みたいなもんだと言っていた。
(現在はそんなこと思っていないらしい)
まあ若いから、そういうことを思っていたのだろう。
危険な考えだ。なにかと物騒な世の中だし。
未だ僕の妻は痴漢の経験はない。パートナーの僕からしたら、非常に安心できる。
だが、それは違った。
彼女は天然なところがある。
つまり鈍い。
結婚してしばらくして、プールの話をしていた時だ。
潰れたプールの話題になって、懐かしいと盛り上がっていた。
「ああ、あそこのプールに小学生の時、よく行ったよ」
最初は楽しい思い出を語っていた妻だが、何かを思い出したかのように語り出した。
「あのプールでさ。一回変な人にあったんだよね」
「え、変な人?」
僕は嫌な予感がした。
「うん。女友達と流れるプールで泳いでたらさ。後ろからびったりくっついて来る男の人がいてね……」
「ちょっと待って。それ妻ちゃんがいくつのとき?」
「えっと、小学校の5、6年生ぐらいかな」
僕も妻も成長が早いほうで、高学年の頃には第二次性徴が始まっていた。
不安が的中して、悪寒が走った。
「それで、その人はなにをしてきたの?」
語気が強まる。
「別になにをしてくるわけじゃないけど、ずっと私の後ろにべったりくっついて、なんか固いものをお尻あたりにグリグリしてきたんだよね」
「……」
やはりか。
「しつこいから、振り返って相手の顔見たら、『チッ!』て言って逃げていったよ。なんだったんだろうね?」
それ痴漢だよ……とは言えなかった。