2006年の年明け。
 お袋方のおじいちゃんが逝った。

 たぶん83歳ぐらい。
 親父方のおじいちゃんとは違い、酒を飲んでも暴れないし、孫である僕たちに優しく接してくれた。
 本当にいい人だった。
 妻であるおばあちゃんが、後妻だったため、お袋とは血が繋がってない。
 だからあまりおばあちゃんとは接する機会がなかった。
 その分といってはなんだけど、僕たちに溢れんばかりの愛情を注いでくれた。

 急に倒れて亡くなったから、悲しむ間もなかった。
 お袋は死ぬ前に間に合った。
 その後、遅れて僕と親父がバスで鹿児島に向かう。

 葬式では坊さんが生前のおじいちゃんの話をしてくれた。
「正義感が強く、とても優しい人だった」
「夏の暑い日はアイスクリームをたくさん買って、公園で子供たちに配り、紙芝居を聞かせてくれた」
「また還暦を迎えてからも勉強熱心で、いろんなサークルに入ったり、テニスをはじめたり……」

 それらを聞きながら、僕は少しずつだが、涙を流すことができた。

 ~2週間後~

 僕と親父は先に、地元の福岡に戻っていた。
 娘であるお袋は、兄妹の叔母と叔父、それから妻であるおばあちゃんの4人で、遺品を整理したりしていた。

 おじいちゃんは物持ちが良い人で、家の中にもたくさんの本を所有していた。
 ただ、僕はおじいちゃんが生前の時から、家の壁をみて、不思議に思うところがあった。
 それはポスターだらけなのだ。
 女性芸能人、アイドルばかり。
 それらが壁一面に貼られていた。

 お袋に聞くと、妻であるおばあちゃんが壁紙の色が気に食わないと理由で、隠しているらしい。
 それにしてもアイドルである必要があるか?


 鹿児島からお袋が疲れて帰ってきた。

 お袋が夜、酒を飲みながら話し出した。

 どうやら、倉庫から遺品がたくさん出てきたらしく。
 その中に、おじいちゃんからしたら、「見ちゃイヤン」なものが大量にでてきたらしい。

 お袋と叔父が買い出しに出かけているとき、おばあちゃんと娘の叔母がそれを見つけた。
 一つのアルバム。
 叔母は「ああ、お父さん写真好きだったもんね」と懐かしむ思いで、ページを開いたそうな……。
 だが、そこには叔母が望む写真はなく、見知らぬ女性が映っていた。

 若い女性があられもない姿で、イスに座っている。

 つまり、ヌード写真である。
 これが妻であるおばあちゃんだったら、まだよかっただろうが。

 葬式で坊さんがいったように、僕のおじいちゃんは還暦を迎えてから、色々なことにチャレンジしていた。
 とあるサークルに加入し、みんなでお金を出し合って、ヌードモデルを雇い、撮影会を楽しんだらしい。
 
 それを後にきいた叔父は、妹の叔母にこう言ったらしい。
「ええ!? 親父が?」
「そうなのよ、信じらない」
 叔母は気持ち悪いといった感じで答えた。
 だが、叔父はそんなことは無視し、前のめりでこう言った。
「その写真、どこにあんの!?」
「ないわよ! 気持ち悪いからすぐ捨てた!」
「えぇ~ 見たかったのにぃ~」
 親も親なら子も子である。


 僕はどちらかというと、お袋側の血筋に似ている。
 真面目な方だし、正義感は強いし、曲がったことが大嫌いだ。
 ただ、先ほどの叔父の発言の通りだ。
 基本変態の家系なのだ。
 それもムッツリスケベ。
 僕も叔父の立場だったら、絶対に「見たい!」と言っていただろう。


 この話の教訓として、もし僕がある日死んでしまったら、押し入れになるムフフなグッズはどうすればいいのだろう。
 僕にも娘が二人いる。
 愛すべき娘たちによって、捨てられるのだろうか?
 父の威厳とともに……。