僕の死んだ父方の祖父、おじいちゃんの話。
 まあ気性の荒い性格で酒を飲んで悪酔いしたら、物をすぐに「ぶっ壊してやる!」とか「家を燃やしてやる!」とか言うハチャメチャな人だった。

 酔ってない時は、けっこう厳しめなおじいちゃんだった。
 まあでも、無口な父よりは面白い話もよくしてくれたし、酒さえ飲まなければ、いいひとだった。

 妻のおばあちゃんという人は、対照的でお嬢様みたいな育ち方で、大人しく、死ぬまで女の子らしい人だった。

 ある日、おじいちゃんが、僕にこう言った。

「おい、幸太郎。じいちゃん、腹が減ったな。なんかおやつあるか?」
「えっと、ちょっと待ってね」
 僕はおやつが入っているカゴを探ってみる。
 母がいつも買い込んでくるので、何かと困らない。

 だが、じいちゃんが好きそうなものはないなぁと、思っていたら、後ろから声をかけられる。

「おお! 犬の糞があるじゃないか! じいちゃん、それ好きだから一つくれや」
「え……?」
 僕は耳を疑った。

「なんのこと?」
「犬の糞があるやないか。そこに」
 僕が手にもっているのは、黒糖のかりんとうが入った袋。
 まさかとは思うが、これを言っているのか?

「かりんとうのこと?」
「そうよ。犬の糞って言わんか?」
「言わないよ……」
 とりあえず、かりんとうをおじいちゃんに渡す。

 それを見ていたおばあちゃんが、口を大きく開いて呆れていた。

「ねぇ、じいちゃん。変なこと、幸太郎ちゃんに教えないでくれる?」
「ハァ!? 犬の糞はいぬのくそだろが!」
 どうやら、おばあちゃんは悪い冗談だと思っていたらしい。
「ウソでしょ?」
「言うよ! 俺がガキの時は、近所の駄菓子屋にいって、『おばちゃん、犬の糞ちょうだい!』って頼みよったぞ」
「じいちゃんの育ったところだけじゃない……私の周辺じゃ、誰もいわなかったわよ。かりんとうって言ってた」
「な~んか、上品ぶって。幸太郎、覚えとけ。これはいぬのくそだぞ!」
 僕は苦笑いするしかなかった。

「幸太郎ちゃん、じいちゃんのこと信じたらいかんよ! お母さんに怒られるから……」
 おばあちゃんが僕にそう注意すると、おじいちゃんはふてくされて、犬のウンチをバクバク食べていた。

「犬の糞はうまいぞ! 幸太郎!」

 それ以来、僕はかりんとうがどうしても、それに見えてしまうようになってしまった……。