「奏多は、脳死だったよ」

ぼんやりとその言葉を聞いた。
折りたたんだルーズリーフも開くように言われて、ゆっくりと広げる。


『遺書
俺の目は高垣凜《たかがきりん》にあげてください』


ぶわっと風が駆け抜ける。
読んでくれた哲弥さんの声と、奏多の声が重なった気がした。

わたしは呆然と、それを眺め続けた。

「それはね、奏多が最初に書いたやつで。
遺言書としては機能してなくて、綺麗に書き直したのもあるの。

あいつ、本当に凜ちゃんのこと大事に思っててさ。
医者にもなれないから病気は治せないけど、自分に出来ることやりたいよなって、書いてたんだ。

万が一の時に、誰かの欠片になれるように。
より添えるように。
あいつなりに、考えて備えてた」

わたしは、淡々と語る哲弥さんの言葉を、玩具のような遺書を握りしめ、相槌も打たずに聞いていた。



「この目は、奏多の目かな」

長い時間をかけて、ようやくそれだけを呟く。


「……最近ね、俺も思うことがあって、ドナーカードっていうの書いたんだ。
それで、色々調べた。
これはね、俺の独り言だと思って欲しいんだけど……。

提供者は匿名性が守られなくちゃいけないから、凜ちゃんのドナーになったのが誰なのかは、俺にはわからない。
奏多は遺書を書いていたけれど、提供相手を優先できるのは親族だけで、例え遺言書だろうと、恋人を指定して提供は出来ない」


わたしは頷いた。
提供を受ける側として、知っていたことだ。