お姉ちゃんは、奏多がすでにいないことを知っていたのだ。
それで、最近落ち込んでいたのだと合点がゆく。


頭をガンガンとハンマーで叩かれているようだった。
酷い動悸と吐き気が全身を襲う。
あんなに爽やかに感じていた今日の風を、疎ましく思った。


わたしがイルカショーを観たいと言わなければ、
階段でぶつからなければ、
目が見えていたら怪我の状態だってわかったし、もっとちゃんと病院へ行くように言えたはずだ。


「自分を責めないほしいんだ。
俺と奈子だって、怪我をわかっていた。階段から落ちたことを知っていたのに、見た目と本人の言葉だけで、病院へ行くように言わなかった。

俺はね、次の日、大学で会ったときにあいつが頭が痛いっていったのを、バカなのに風邪引いたのかなんて笑ったんだよ……それで……あいつはそのまま……っ」


真っ暗な穴をずっと落ち続けているような感覚は、哲弥さんの声で呼び戻された。

哲弥さんは号泣していた。


ずっと後悔していたんだ。
たらればばかりな思考に、押し潰されそうになりながら、耐えていた。