「凜ちゃん」

彼は申し訳なさそうにわたしを呼んだ。


この声。
呼び方。
そうだ、この人は黒髪じゃないか。
奏多の髪は明るい色だとーー……。


「哲弥、さん……?」


びっくりしながら聞くと、「さすが、よくわかるね」と哲弥さんが近づいてきた。

少し見上げるくらいの身長。
別れた前髪が風でさらりと動いた。
声や話し方を聞いて思い描いていた通りの、穏やかで知的そうな人。


「びっくりした……哲弥さんにも会えるなんて……えっと、初めまして。高垣凜です」


緊張しながら挨拶すると、哲弥さんは息を零して笑った。


「うん。俺は何度も顔を合わせてるから、初めましてではないんだけどね。
でもそうだね。凜ちゃんにとっては初めましてだ。
改めまして、峰岸哲弥(みねぎしてつや)です。よろしくね」

「よろしくお願いします」


知り合い一人一人の顔を知る度に、パズルがはまるみたいにぼやけていた世界がハッキリとしてくる。

思わぬ出会いに、嬉しさが倍増した。

大学が違うから、また別の機会になってしまうだろうが、奈子ちゃんにも早く会いたい。
これからは、介助なしでみんなで遊べるようになるんだ。



「奏多と待ち合わせなの」


そう伝えると、哲弥さんは正門をくぐり大学の中へと招き入れてくれ、講義棟へ続く並木道横のベンチへ案内してくれた。

わたしが座ると、一人分のスペースをあけて哲弥さんも座った。