退院した次の週、わたしは改めて奏多の大学へ行くこととなった。
あの日の約束を、今度は新しい世界でやり直したくて。

外の世界は、色とりどりに煌めいている。
すっかり忘れていた景色だ。

実は体力が落ちていたり、薬の関係だったり、あとは視力が安定しなかったりでフラフラしていたので、大学の前まではお姉ちゃんが着いてきてくれることになった。

奏多と初めて出会った駅へ向かうため、通い慣れた電車に、初めて乗るようなソワソワとした気持ちで乗る。
子供みたいに忙しなく視線を動かし、外の景色に魅入った。

お姉ちゃんはここ一週間、元気がない。
なんとか元気に振る舞おうとしているが、明らかに空元気である。

1度大丈夫かと声をかけたが、仕事で少し大変な思いをしたのだと教えてくれた。
それでも、こんなにも長く落ち込むなんて、気持ちの切り替えが早いお姉ちゃんにしては、珍しいという印象だ。

それとも、今までは見えなかったが為に、わかってあげられていなかっただけだろうか。

お姉ちゃんは電車でもバスでもずっと、無言でわたしの手を握っていた。
もう見えるのだから、手など繋がなくても大丈夫なのに。

その手が縋るように必死な感じがして、寂しさを耐えているような感じがして、わたしも離そうとしなかった。