退院までは、穏やかに過ごした。

徐々に自分で出来ることが増え、奏多ともメールも出来るようになり、これからの未来は明るいのだと、そう思った。



「なんか、自分の家じゃないみたい……ねぇお母さん、カーテン変えたの?」


退院し、家に帰ると思い描いていた家と違った。

ソファを買い換えたのは知っていたが、テレビや棚など新調された家具もあって、本当に今まで住んでいた家なのか疑ったほどだ。

玄関からリビングまでの歩数も、手摺りの位置も、床の感触も全てが一緒なのに。


「10年も経てば買い換えるわよ。凜はいきなり10年後にタイムスリップしたような感じかな」

たしかにそうだ。
未来へ来てしまったように、全てが珍しくて、全てが新しい。


車の形も、街の景色も違った。

テレビの映像技術も驚くことばかりで、わたしが役者でもし浦島太郎の役をやったら、誰よりも上手く表現できるだろうと思った。

クローゼットを開けると、わたしの着ていた服やバッグは、百貨店のブランド物が半分を占めていた。


「高い物ばっかり……」

「従業員割引使えたし、型落ちで安くなってたのばかりだよ」

「でも……。
もう! わたしが見えないからわからないと思って……」


言葉がつまる。
怒ったわけではなくて、お姉ちゃんの気遣いがわかったから、泣きそうになった。

こんなにも愛されているんだって、実感したからだ。