ちゅっと小さなリップ音が、たくさん降ってきた。

おでこ、まぶた、頬に二回、そして唇を啄む。

「え、か、かな……た…」

焦って胸を押すと、奏多はその手を退かして唇を塞いだ。


「ーーあ、ねぇ。だめ。見られちゃうよ……」

キスの合間に訴える。


「凜には誰か見えるの?」

軽く唇を合わせたまま、奏多は言った。
ちょっといつもより口調が冷たい。
怒っちゃったのかな。


「見……え、ない。けど……ひゃ……!」

喋ってる途中に耳朶をかじられる。
かーっと顔が熱くなった。


「でしょ? 俺も誰も見えない」

「かなた……」

「凜しか見えないよ」

「ーーーーわ……」


噛みつくようなキスに押されて、壁にコツンと頭がぶつかった。



(幸せだな)

腕の中でそんな風に思った。
さっきまであんなに悲しかったのに、今は温かさを感じる。

奏多が、好きだよ大丈夫だよってたくさん安心させてくれるからだ。

奏多に包まれながら告白する。


「……奏多の顔がみたいなぁ。
目がみえなくなって色々絶望したりしたけど、こんなにも見たいと願ったのは、奏多が初めてだよ」

「俺の顔? 俺はねぇ。目が二つに。鼻が一つに口がひとつあってね」

「それはみんな一緒じゃない?」

「みんなと違うのはね、俺は、凜をずーっと見てるってことだよ」

「なにそれ」


わたしは破顔する。
目が熱くなって、涙があふれた。
微かに感じられる光は、乱反射するように弱くなった。