「おい、ぶつかっといて無視してんじゃねーよ」

上からドスの利いた声がした。


「スマホ割れちゃったじゃん! どうしてくれんの弁償しなさいよ」

騒ぎ出したカップルに、心配して集まってくれていた人達がざわついた。


「スマホ……?」

ぶつかった際に落としたのだろうか。


「どこ見てんの。とぼけてないでよね!」

「え、え……?」

肩を押され、動揺する。


「やめろ! 彼女は目が見えないんだ!」

奏多がわたしの肩を抱き寄せる。
わたしは震えてしまい、腕の中でぎゅっと目を瞑った。


人とぶつかると、嫌な思いをすることが殆どだ。
文句を言われなくても、舌打ちされることもある。
見えないなら出歩くなと、詰られたこともあった。

わたしはあとどれだけ、こんな思いをしなくてはならないのだろう。


「はぁ? 目も見えねぇのにこんなとこ来てんじゃねーよ。ここはショーを観るところですよ~」

「迷惑だから帰ればぁ」

下卑た笑いと共に言われ、唇を噛む。
明らかに見下されていた。


「っざけんな!」

ぎり、と奥歯を噛みしめる音がした。

「見えないなりに、お前らにはわからない楽しみ方があんだよ! 自分の物差しで物事を測るな! 第一、歩きスマホで、前を見ずにぶつかってきたのはそっちだろ!
そっちが謝るべきだろ!!」


奏多の言葉に息を詰まらせる。
嬉しくて、そしてごめんなさいって思った。

奏多が怒りを吐き出すと、見ていた誰かが声をあげてくれた。


「俺も見たぞ! その女がよそ見してぶつかっていったの……!」


その声がきっかけになって、周囲の人達が味方になりだす。

次々と非難されるカップルは、不利だと感じたのか、「うっざ……」と吐き捨ててその場を離れていった。