「あっ」

「凜!!」


(ーーーー落ちる)


とっさに左側の手摺りを掴もうとして、手から離れた白杖が、プランと手首にぶら下がる。
衝撃で床から足が離れる感触をスローで感じた。

腕を強く引っぱられて、その痛みとともに奏多に抱きしめられたのがわかった。


きゃあという悲鳴と、カツンカツンという堅いものが落ちる音。

二人はゴロゴロと転がる。
ガツン! と鈍い音と奏多の呻く声が聞こえた。

手摺りがきゅるっと鳴いて、わたしたちの体はやっと止まった。


「大丈夫ですか?!」

周囲からも焦った声が投げられた。

色んなところから手書き伸びてきて、体勢を整えるのを手伝ってくれた。
少し下の踊り場に落ち着く。
足が震えて、へたり込んだまま立てなかった。


「いったぁ……もうっ危ないなぁ! ちゃんと前みてなさいよ」

わたしを非難するのはぶつかった人か。


「あーいってぇー。凜、大丈夫?」

「っだ、大丈夫……奏多は? 怪我は? どこかぶつけたよね?!」


不安で、奏多の体をペタペタと触った。


「俺は平気。手摺り掴んだ腕が抜けるかと思ったくらい」

あはは、と笑いながら言う。


「俺達、階段に縁があるよな」

「…っそんな呑気なこと言ってないでよ。ほんとにどこも痛くないの? 変な音もしたし、痛そうな声聞こえたんだからっ……」


震える手で服を掴むと、奏多は大丈夫だと背中を叩いた。

「腰打ったかなぁ。じんじんしてる。あーくそっ、ズボンのお尻のところ濡れちゃったよ。恥ずかしいな、もう」

「奏多……」


わざとらしい明るい声に泣けてくる。

本当に?

見えないと、血を流している場所もわかってあげられない。
わたしは、手当をしてあげられない。

どれほど落ちたかわからないが、コンクリート製の堅い階段で無傷なわけない。