「い、いたた……」

背中を打って擦りむいたみたいだ。
ゆっくりと起き上がると、すぐ近くから「うー……いってええ」とうめき声が聞こえた。

「おい奏多。大丈夫かよ派手に落ちたな」

ギャハハハとお世辞にも品がいいとは言えない笑い声がちかづいてくる。
人を小ばかにしたような、いやらしい話し方だ。

「おねーさんは、だいじょーぶぅ? 怪我はー?」

この人はさっきの人ほどではないが、形式的に聞いてるだけで、いかにも面倒くさそうだ。

「え、あ、ごめんなさいっ。あーやべえ。痛いとこない? 頭打たなかった?! マジでごめんなさい!!」

ぶつかった相手のようだ。
腕を支えて立たせてくれて、服が汚れてしまったのか軽く叩いてくれた。

初めての相手は間合いとか、空気がわからないからすごく嫌だ。

「あ、あの。大丈夫です。
ちょっと擦ったぐらいで……あの、それよりも、白杖(はくじょう)とバッグを拾って貰えませんか」

白杖がないと不安でたまらない。
持っていないと、目のことを気がついて貰えないことが殆どだ。

バッグはどこに行ってしまったのだろう。見えもしないのにきょろきょろと首を動かした。


「え? はくじょーって、なに?」

きょとんとした声が返ってくる。


「白い、杖です……」

そう呟いたとき、「おい、この女……」と囁きが聞こえた。目が見えない分、耳が鍛えられているんだ。
こういうときは、大概、体のことを言われてる。いつになっても慣れないものだ。