「初めてだったってほんと……?」

少し落ち着いてから、奏多が耳打ちしてきた。
ファーストキスだというのを気にしているらしい。


「……」

「ねぇねぇ」

答えないでいると、体をくっつけて肘で押してきた。


「うるさいの! どうせ経験なかったですよ」

「まじ? 付き合うのも初めて?」

「……ダメかな?!」


二人きりならまだしも、哲弥さんも奈子ちゃんもいる前で、なぜわたしの経験値を赤裸々に暴露されているのだろう。

奏多よりわたしのほうが数倍恥ずかしい。


「いや。そんな……駄目だなんて……」

奏多は口ごもる。


引かれたのだと思ってショックをうけていると、哲弥さんが、奈子ちゃんの向こう側から袖を引いて合図を送ってきた。


「凜ちゃん、奏多喜んでるから。
めちゃくちゃ気持ち悪い顔してニヤけてるから」

「過去に“陰キャ”だったほうが、男の人はうれしいってこと?」

「あー……ちょっとニュアンス違うかな……」


哲弥さんは残念そうにした。
覚えたての今どきの単語を使ったのだが、間違えただろうか。
奈子ちゃんはそれを聞いて大笑いしていた。