「口紅塗るふりをしてキスを奪うなんて、とんだ変態だよな。しかも記念すべきファーストキスを」
「はぁ?!」
哲弥さんの暴露に、奏多はすっとんきょうな声を上げた。
「ちょっと、凜、言ったの?!」
「や、わたしは奈子ちゃんと話を……」
「ごめーん。わたしが哲弥にも言っちゃった」
悪気の無さそうな謝罪が聞こえる。
哲弥さんと奈子ちゃんは大笑いをしていて、わたしは奏多に脇をつねられた。
「なんの羞恥プレイよこれ…!」
「ごめん……恋愛話できるのうれしくって、つい……」
わたしは熱を持った頬を手で冷やす。
奏多と付き合うようになってから、一ヶ月がすぎた。
付き合い方について色んな相談をしていたら、奈子ちゃんとは以前より急激に仲良くなった。
奈子さんじゃなくて、奈子ちゃんとか呼び捨てがいいと言われたのもそれからである。
照れながら白状すると、奏多は咳払いをした。
「まぁ、別にいいんだけどさ。凜が浮かれてるっていうなら俺も嬉しいわけだし……」
声が遠くなったので、そっぽを向いたのだろう。
ブツブツと口の中で言っている文句は、背中から響くガタンゴトンという規則的な電車のレール音にかき消された。
何度目かとなる、四人での遠出だ。
今日は隣の県の水族館に行くことになって、四人で電車移動となった。