「具合悪い?」

「あ、ううん。平気! ちょっと考え事してたの」

「そう? 無理はだめだかんね。俺、凜が倒れたとき泣きそうだったんだから」



遊園地の事を恨みがましく言われて「あの時はごめんね」と首を竦めた。

「凜のせいじゃないけど。でも俺、そんときに思ったことがあって……」


(思ったこと?)

なんだろう。

話が続くと思って待っていると、奏多は少し間をあけてから話を切り替えてしまった。


「なんか化粧も違うね」

顔をじっと見られていたのだとわかり、眉をしかめる。


「恥ずかしいからじっと見ないでよ。まだなんかついてる……?」

両手で顔を隠した。


「なんで隠すの。何もついてないよ」

奏多の指が頬を突く。


「今ね、自分でお化粧する練習してるの」

「澪《みお》さん、もうすぐ家出るんだっけ」

「うん。お姉ちゃんも人に化粧するの好きだからやってくれるんだけど、自分でも出来るようになっておかないと、この先大変だし」

「そっか。でも、上手にできてるよ。可愛い」

「ほんと?」

「口紅落ちちゃったね。俺に塗らしてよ」

「えー……恥ずかしい」

「大丈夫大丈夫」


何が大丈夫なのかわからない。
渋々化粧ポーチを渡すと、奏多はそこから口紅を出した。