指にのせたアイシャドーを軽く瞼におく。
奏多から貰った口紅を下唇に塗ると、擦り合わせて上唇へうつした。
「お姉ちゃん、できたよ。どうかな?」
自分で一通りの化粧を終えると、後ろで自分の仕度をしながら待っていてくれたお姉ちゃんに声をかけた。
ブラインドメイク。
自分で顔を触って、自分で化粧をする方法だ。
慣れないから時間もかかるし、とても疲れてしまった。
ずっとお姉ちゃんに頼りっきりで、自分でやってこなかったけれど、お姉ちゃんが安心してこの家を出れるように、わたしも自立した姿を見せなくてはならない。
「どれどれー?」
お姉ちゃんの息づかいが頭の上からふってくる。
「お、なかなかいいね。ファンデーションもムラなく塗れてる。チークはもう少しだけ上で、にーって笑って、頬骨あげてやるとやりやすいかも」
「合格?」
「上出来。でも眉毛だけはやっぱり難しいねぇ」
修正するためのお姉ちゃんの手が入る。
「眉って顔のメインだから、それだけで人相かわっちゃうんだよね。型を作っておいたらやりやすいかな。うん。ちょっと次は試してみよう」
ブツブツといいながら眉を描く。
ほぼ独り言だ。
「今日も奏多くんとデートなんでしょ?」
「デートじゃないけど……遊びに行くよ」
遊園地以来、よく誘ってくれるようになった。
二人の時もあるし、哲弥さんと奈子さんも交えて四人の時もある。
遠くに行くときほど四人の事が多いのは、奏多なりの気遣いなのかもしれない。
今日は二人で近場の公園だ。
奏多のスケボー練習が出来るところらしくて、それも兼ねて行きたいらしい。
目的もなく他愛もない話をするためだけに会い、会話を楽しむのもとても嬉しかった。