「とうとう心だけじゃなくて、体も捧げたくなるほど惚れたの?」

「バカ。死なないとあげれないじゃん。俺が死んだら凜と一緒にいれないだろ。
でもさ、凜と知り合って、世の中にはたくさんの病気や怪我と戦っている人がいるって知ってさ。
もしもの時があったら、俺も役に立てたら良いなって」

「ふうん……」

「俺の目は、凜にあげてーなぁ」

「もし死んでも、凜ちゃんにあげれるとはわかんないんじゃないの。適合するかどうとか、提供者は秘密だとか、色々聞くじゃん」

「あ、そっか。どうすりゃいいんだ? あ! 遺書とか書いときゃいいんじゃね? ドナーカードと一緒に持ってればわかるでしょ」


俺はルーズリーフを取り出すと、

『俺の目は高垣凜《たかがきりん》にあげてください』


と大きく書いた。
哲弥は溜息をつく。


「意気込みは素晴らしいんどけどさ、たしか遺書って色々制約あったよ。署名と日付と印鑑だっけ? それだけだと無効な気がする」

「うそ」

「ちゃんと調べろよなぁ」


慌ててスマホで検索すると、『遺言書の書き方』というサイトがたくさん出てきた。



「うわ、ほんとだ」

「あとさ、臓器移植って親族優先ってのはあるっぽいけど、やっぱり相手の指定はできなそうだぞ」

「まじかぁ。遺言を書いてもだめ? え、籍いれるかな。結婚しちゃう?」

「その前に告ったの?」

「…………まだ…………」

「先走りすぎじゃない?」

「やー、だってタイミング逃したら言えなくなっちゃってさー。
凜の事知ればしるほど、俺なんかでいいのかなぁって思っちゃってさ。
でも、めっちゃ好きなの」

「呆れた」


呆れたと言うが、告白の邪魔をしたのは哲弥である。
計画もなしに、遊園地で言おうとするのも悪かったかもしれないが、具合が悪くなった凜を俺が守らなくちゃって気持ちになったし、抱きついていたらどうにも気持ちが盛り上がって……。


「わかった! 次のデートで告白する! なぁどこが良いと思う? どうしよっかなー」

「恋煩いもいいんだけどさ、告白の前にレポートしあげようよ」


今度はデートスポットを調べ始めた俺に、哲弥は呆れた視線をよこした。