ペア席の隣には奏多がいた。

念のための安全ベルトをゆるくかけるが、いきなり立ち上がって転ばない為とか、その程度らしい。

奏多がきゅっと手を握った。
いちいちドキドキしているのはわたしだけなのだろう。

スキンシップが多くて怒られると言っていたが、簡単にこういうことをする奏多が恨めしい。
自分を含め、勘違いする女の子も多そうだ。


「緊張するな」

ヘッドホンをしながら「うん」と頷く。


「大丈夫? 怖くない?」

「うん。今のところ」


声が遠くなった。
唯一頼れる耳を塞がれるのは、なんだか落ち着かない。


「あ、真っ暗になった。始まるみたいだ」

「ーーーーうん」


奏多はワクワクしているようだ。
小さな声で返事をすると、ヘッドホンに耳を澄ました。

背中がぞわりとする音が、頭の中で鳴り出した。
悲鳴、追いかける靴音、何かが割れる、男の吐息。

本当に自分がその世界に入ってしまった感覚になる。
握っていたはずの奏多の手がいつの間にか無くなっていた。


(奏多……どこ)

手を繋いでいたい。

玉のような汗が噴き出し、背中が濡れる。
不快な音ばかりが襲ってきた。

ああダメだ。
すごく苦手みたいだ。

逃げ出したい。
早く終われ、と願った。