『それでは、いってらっしゃぁーい!』

マイクを通した女の人の声。


「凜! 凜、係員がハイタッチしてる! 左手バンザイして!」

慌てて手をあげると、パチン!と軽快なタッチをされた。
ピリッとした手のひらが高揚感を高める。

レールが軋み、体が徐々に斜めになる。
ゴトゴトという音とともに、自分が空へとのぼっているのがわかった。


「登ってる!」

「奏多の声うるせぇー」


哲弥さんが呆れた声を出す。
暫く登ると、奏多が手をぎゅっと握った。


「落ちるうぅぅぅぅぅ!!」

奏多が叫んだ次の瞬間。
内蔵がふわっと浮く気持ち悪さを感じたと思ったら、あっという間に落ちていった。


「きゃーーーー!!」

怖いのより楽しいのが勝って、歓喜の悲鳴を上げた。顔に風がぶつかる。
髪が後ろに飛んでいった。

なんだこれ。

そうだ。
世界ってこんなだった。

淡々と過ごす味気ない毎日で、こんなにも色鮮やかなことをすっかり忘れていた。


「み、ぎに曲がるぅーーーー!! うおっ。左! ぎゃーー! また落ち……!!」

奏多は悲鳴を交えながら何を言っているのかと思ったら、次に進む方向を示してくれていたのだ。


「左に急カーブうううう!」

体が右に振られて、奏多の肩とぶつかった。

なんだかわたしより奏多のほうが怖がってないかな。
必死に道案内してくれるのが、おかしくて仕方が無い。

わたしはお腹が痛くなるほど大笑いしながら、ジェットコースターを乗り終えた。