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景色は見えなくても、空気や音を感じるだけでとても楽しかった。

奏多は介助者として気を張ってくれているのか、となりにピタッとくっつくので、それがなんとも擽ったい気持ちになる。

それを見守る哲弥《てつや》さんと奈子《なこ》さんが、生暖かい雰囲気を醸し出すのですごく恥ずかしい。

さらに奏多は、興奮すると色んな事を忘れて肩を抱いたり飛びついてきたりする。
その度にやっぱりびっくりしてしまうのだが、いつもみたいに嫌な気持ちにならなかった。

色んな乗り物に乗って、メインのジェットコースターへ来た。

腰にベルトをし、肩に安全バーを落とす。
後ろの席には哲弥さんと奈子さんがいた。

わたしは前の手摺りにしっかりと掴まった。
隣に座った奏多は体を寄せると、手をくっつけてバーを掴み小指を少し絡めた。

「大丈夫?」

耳元に、ふっと落ちてくる低い声。
息づかいを、顔の真横に感じた。

声はすっかり聞き慣れて、もう最初に名乗ってもらわなくても奏多だってわかるようになった。

「どうかな。すごくドキドキしてる。たくさん落ちたり曲がったりするんだっけ」

「うん」

奏多はひひっと笑う。

「安心してよ。俺が完璧な道案内するから!」

(道案内?)

首を傾げたところで、ジェットコースターは出発した。