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奏多《かなた》とお姉ちゃんの勤めるショップへいくと、お姉ちゃんはびっくりしていた。


「ーーーーは?! え?! 彼氏?!?!」

「ちがうから……!」


きっと目を白黒させているだろう。
姉の澪《みお》だと紹介すると、奏多は「こんにちはー」と陽気に挨拶した。


「ね、凜が無くしちゃった口紅ってどれ?」

「あ、ちょっと…!」


お姉ちゃんには内緒にしていたのに、奏多にバラされてしまい慌てる。

「え?! あれ無くしたの?」

「う……うん……」

お姉ちゃんの腕を引き奏多から離れる。
コソコソと今までの経緯を簡単に話すと「やだ。素敵」とワンオクターブ声が高くなった。


「それって、一目ぼれしましたって言ってるようなものじゃない」

「お姉ちゃんってば、揶揄わないでよ」

「だって凜のこと、お金返すために一ヶ月も探してくれて、仲良くなりたいって言って、さらにはお詫びに口紅も買ってくれるんでしょ? 優しいじゃない」

「い、いい人そうなのはわかるよ……でも、彼は……」

「健常者だからっていいたいの? 健常者と障害者のカップルなんてたくさんいる。それに、彼はそんなの気にしてなさそうだけど。
凜も気になるならさ、お友達になりたいって言ってくれてるんだから、難しいことは考えずに仲良くしてみたら?」

ぽんぽんと背中を叩かれた。
困りながらも少し嬉しい気持ちもあって、まんざらではなかった。

「……ねぇ、奏多って、どんな感じ? わたしはね、犬っぽいなって思うんだけど」

おずおずと告げると、お姉ちゃんはカラカラと笑った。

「そうね。第一印象は、元気であったかくて、太陽みたいな子かな」

「……そう」

「因みに、背も高いしお洒落だし、すごくイケメンだよ」

お姉ちゃんは、最大の秘密を暴露するように囁やいた。

「わたしには、容姿は関係ないもん」

「うん。だから、おまけの情報ね」

お姉ちゃんはいひひと笑い、奏多の元へと戻った。