「あ、あの時、口紅落ちてなかった? そこの百貨店の袋に入った……」

嬉しいと感じてしまう心を、誤魔化すように話をした。


「口紅? え、もしかして見つからないの? けっこう暗かったし見落としたかも。ごめん、俺は拾ってないや」

「そっか……」

「ほんとごめん。誰かへのプレゼントだった?」

「あ、自分のだけど……限定販売のコスメで、予約して楽しみにしてたから、見つかるといいなって……」


可愛いなんて言われて、ちょっと気分が浮ついていたようだ。話さなくていいことまで話してしまう。

すると、ふぅんと相槌がはいった。


「目が見えないのに、どうやって口紅を塗るの?
見えなくても化粧って楽しめるの?」

無邪気な問いかけに、わたしは凍り付いた。


顔も知らないちょっと話しをしただけの人を、この人なら、色々話せるなってつい気を許してしまったのが間違いだったんだ。


途端に浮ついた気持ちはすぅっと冷え、一気に怒りが沸騰した。悔しくて、恥ずかしくて涙さえ浮かぶ。

信用しかけていたのに、勝手に、裏切られたような気持ちになった。

そうだ。
誰もが、ーーーーこんなもん(・・・・・)だ。