「多い……よね?」

「うん。なんつーか、利子と、慰謝料っていうの?
怪我大丈夫だった?」

「擦り傷だけ。あなたは……?」

恐る恐る聞くと、嬉しそうな空気をふわりと感じた。

「俺も、ちょっとぶつけただけでどこも痛くなかったよ」

温かみのある声色に、すこしだけ警戒がうすまる。

「利子も慰謝料もいらないけど……」

「俺の気持ちなの! ねえ、それよりさ、まだ名前教えて貰えない? 俺は信用できない?」

しゅんと耳をたらした子犬が、ご主人にお伺いをたてているようだ。
ここで無視をするのは可哀想な気がして、うっとなる。


高垣(たかがき)……(りん)……」

観念してぼそっとつげると、途端に声色が明るくなる。

「凜ね! 何歳? 同じくらいだと思うんだけど。あ、俺はたちだよ。大学二年!」

いきなり呼び捨てだ。
しかし、奏多のなつっこい人柄なのか、それほど嫌だとは思わなかった。


「……はたち…」

「いっしょだ!!」

また手をぎゅっと掴まれて、びくっと肩を竦めた。


「あっごめん。視覚障害の人にいきなり触っちゃ駄目って勉強したのに、なんか癖で。
スキンシップ多すぎって、友達にもうざがられるんだよね」

「勉強したの……?」

「あー、ちょっとネットで調べただけだけど。だって、一緒に歩くのも、話しかけるのもどうしたらいいかわかんなかったしさ。
あ、白杖は覚えたよ。
それ、周りに知らせる為とか、周りの情報仕入れたりとか、色んな役目があって大切なんだね」