コスメフロアは、独特の化粧品の匂いでむせかえる。床はつるつるで、白杖をふっても目印になる物がない。
いつも通り、お姉ちゃんに百貨店の出入り口まで送ってもらうと、先ほど買った商品の紙袋を受け取った。
「大丈夫? この後もう予定ないんでしょ? ゆっくり気をつけて帰ってね」
「うん。ありがとう」
お姉ちゃんの手が肩を撫でた。
細くて、綺麗な指だ。
接客業で邪魔にならない程度の、シトラスの香水がふわっと香る。
「うん。今までピンク系が多かったけど、顔もシャープになってちょっと大人っぽくなってきたから、オレンジ系統もにあうね」
お姉ちゃんは、ラメ入りのグロスを乗せた唇の横をちょんと指で触った。新商品だと試してくれたアイテムだ。
「そうかな」
「うん。最近、ぐっと大人っぽくなったよ。次の休み、新しい服買いにいこっか。めちゃくちゃ似合うの選んであげる」
「え、いいよ。休みなんだからお姉ちゃんは陽生さんとデートしなよ」
「陽生とは結婚したら嫌でも毎日一緒なんだから。わたしは凜と遊びたいの。
あー、すっかり遅くなって、暗くなってきちゃったね。あと1時間でシフト上がれるから、待っていてくれたら一緒に帰れるんだけど……」
「駄目だよ。今日は陽生さんのアパートに行くって言ってたじゃない。もう、過保護なんだから」
わたしが眉をしかめると、お姉ちゃんの仕方ないなぁという溜息が聞こえた。
「お姉ちゃんはもうすぐ家をでるんだよ?
嬉しいけど、そろそろ自分の為に時間をつかってよ。わたしも心配かけないようにしっかりするからさ」
わかったよ、と寂しそうな声をきいて別れた。