「っあ、そうだ。びっくりするんだった。やべっ」

手がぱっと離れる。


「ええと、俺、荻原奏多《おぎはらかなた》っていいます。先月、あなたと階段でぶつかっちゃってーー……」

カナタ。
そうだ。ぶつかった男は、そう呼ばれていた。


「怪我大丈夫だった? なんともなかった?」

ふつふつとあの日の怒りが再熱してくる。
また、お金をたかられるんじゃないか。
そんな不安もあって、無視をして駅へと急いだ。


「ねえ、ねえ待って! 俺謝りたくてずっと待ってたんだ!」

歩きだしても、奏多はずっとついてきた。


「あれから毎日待ってたけど、中々君を見つけられなくてさ。だから遅くなっちゃって申し訳ないんだけど。
この駅、毎日使ってるわけじゃないの? もうさすがに諦めた方がいいのかなって思ってたから、ほんと今日会えて良かったよ」

「毎日……?」

つい立ち止まってしまう。


「あ、うん。俺、ここの近くの大学行ってるのもあって、家が近所だしさ……あ、えっと、それより……! これ!」

手を掴まれびくっとすると、手のひらに何かを押しつけられた。