溜息をつきながら財布に手を伸ばすと、がま口が開いている。
落としたときに開いてしまったのかな? と何気なく中身を触ると、入っているはずの現金が無いことに気がついた。

「……え? ……え?」

小銭のところも、他に入りそうなところも、バッグのインナーポケットも確認したけれど、どこにもない。

「あいつらだ……」

駅でぶつかった、あいつらだ。
荷物を拾って欲しいと頼んだ時に、何やらコソコソと話していた。

「拾うときに、盗られたんだ……」


衝動で、財布を壁に投げた。
悔しくて悔しくて、ぎりっと唇を噛む。

外に出れば、急にクラクションを鳴らす車に、案内してあげると善意を押しつけてくる人。

嫌な思いはたくさんある。
けれど、これほどまでに悔しいのは久しぶりだった。

警察に届けるのはハードルが高かった。
だって、“目撃”してないんだから。

相手の顔なんてわからないし、そもそも、最初からお金が入っていたかどうかすら怪しまれるだろう。
証拠がない。


疲れと悲しさから泣けてきた。

前向きに生きてるつもりだけど、こんな時はどうして自分ばかりと、見えないという運命を呪わずにはいられなかった。