なんだかとても疲れていた。

とても、怖かったというのが正直な気持ちだ。
ぶつかった人は、たくさん謝ってくれたから根はいい人なのだろう。

しかし、如何せん“何も分かっていない人”だった。

かなり落ち着きもなく慌てていて、突然腕を掴んだり、急に背中を押したりした。
とてつもなく驚くから、善意だとしても遠慮したい。


自分が今、どういう状態なのかわからなくて、電車では俯いて体を小さくしていた。
髪もボサボサかもしれない。
膝を触るとピリッとして、手のひらから血の臭いがした。
座席に座ると、ちょっとだけお尻が痛かった。痣になるかも。

鞄を探ると中身はぐちゃぐちゃで、ハンカチがどこにあるのかもわからなかった。

家まで歩くのも億劫で、駅までお母さんに迎えに来て貰う。
いつもより帰宅が遅かったのもあって、お母さんはびっくりしていたが、転んでしまったのだと伝え手当をして貰った。

食事とお風呂を終えると、自分の部屋でやっと落ち着く。

鞄の中身をベッドに広げ1から整理していると、今日やっと買えた口紅が無いことに気がついた。

「うわぁーショックぅ……」

ベッドにばふっと顔を伏せた。
予約までして買った限定商品。高かったのに、一回も使わずになくすなんて。

交番に聞いてみようか。
いや、もう見つからないかも。