「あの女、目ぇ見えなそうなのに金持ちそうだったじゃん。財布みたらビンゴでさぁ。ありがたくいただいちゃったってわけ。
全然気がつかねえんだもん。うけるよなー」

「ばっっ!! 何やってんだよ返せよ!!」


奪い返そうと手を伸ばすと、ひょいと避けられてしまう。


「お前、連絡先交換できなかったんだろ?
名前も連絡先もわかんないなら、たとえ気がついてもあの女もなんもできねーって。だいたい、顔も見えないんじゃーケーサツにも喋ることねーじゃん?」

「な、な……、犯罪じゃん……!」


叫んだ途端に殴られた。
いきなり頬をビンタされて、目の周りがチカチカとした。


「でけぇ声だすなよ」

「っざけんな! カツアゲと変わんねぇよ!!」

カッとして、佐久間さんに飛びかかった。


これほど駄目な人だとは思わなかった。自分より弱い立場の人からお金を盗むなんて。
佐久間さんは、「うわっ」と言ってすっころぶ。


「何すんだてめぇ!」

「そっちこそだ! 返せ!!」


取っ組み合いになると、止めに入る奴、はやし立てる奴もごっちゃになって、大騒ぎになった。

駅前の交番から、騒ぎに気がついた警察官が数人走って来るのが見えると、それまで盛り上がっていたみんなは一目散に逃げた。

結果で言うと佐久間さんには惨敗で、そこら中を殴られた俺はすぐに動けず、逃げ遅れて警察のお世話になった。