「家どこ? 送るよ」

「いいえ、電車に乗りますので」

「あ、じゃあ手当てしよう。擦ったところ痛いっしょ? 血が出てるからさ」

「ほんとに大丈夫なので、あの、もう帰らないと……」

「後で痛くなると困るから、せめて連絡先交換しておこうよ。あ、名前は?」

送ると言っても拒否されしまい、途方にくれる。
せめてもと思って心配でそう言ったのに、周りが冷やかしたせいで彼女は気分を害したようだった。


「奏多《かなた》ぁ! 新手のナンパかよ。うける」

「しつこくて嫌がられてんじゃん」

「ぶつかったのわざとじゃねえの」



「ちげーって!」

こっちは真面目なのに。
煩いなぁと思って振り返ると、佐久間さんがニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。

それがあまり良くない種類の笑い方で、嫌な予感がした。

(目の見えないこの子が遊ばれてしまったら……)


「じゃあ、改札まで送るよ。ね?!」

強引に彼女を促した。